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火星からやってきた理論?ラオウ杉本を生まれ変わらせた根鈴雄次さんの「鬼ダウンスイング」

[ 2021年12月27日 11:30 ]

バットはこう扱え!とばかりに、インパクトの瞬間のポーズを取る根鈴雄次さん
Photo By スポニチ

 天動説が幅を利かせていた時代に、地動説がもたらされたような衝撃的な理論だ。2014年から横浜市で野球塾「根鈴道場」を開く根鈴(ねれい)雄次さん(48)は、バットを「斜め上から」や「横」の回転で振るのではなく、極端に言えば、時計の針のように「縦回転」で振るイメージで、スイングを教える(写真参考)。

 バットのヘッドを下げるのは、打球に角度を付けるため、すなわち本塁打を打たせるためだ。

 日本に馴染みが薄いそのスイング軌道を、根鈴さんは「鬼ダウン(スイング)」という認識で指導している。しかし、現在は適切な表現がなく、悪い意味を含む「アッパースイング」というジャンルでくくられてしまうことが多い。強引に例えるなら、ゴルフのスイング軌道(クラブのロフト角がボールを上げてくれるため、ゴルフは決してアッパースイングではない)に近く、「日本で良いとされていることに当てはまらないですよね」と自認する。

 しかし、だ。

 時に、火星からやってきた理論のような扱いを受けながらも、3年前から個人指導をする「ラオウ」ことオリックス杉本裕太郎外野手(30)が今年、パリーグの本塁打王を獲得した。その事実は、変えられない。

 理論や練習方法は、著書の「MLBでホームラン王になるための打撃論」(竹書房)に収められている。目から鱗のメカニズムと感じる人もいれば、そんなバカなと抵抗を感じる人もいるだろう。「上から叩け」、「(引き手の)脇を締めろ」、「ヘッドを返せ」という伝統的な考えから大きく外れるからだ。

 実際、本塁打を理想とする根鈴さんに対して、アレルギー反応を示す小中学生の野球チームがあるという。

 「うちのチームに入るなら、根鈴道場に行くのは禁止みたいな」

 子どもが本塁打を打った次の打席に「調子に乗るな」とバントをさせたり、ゴロ打ちを重視する監督には、たまったものではないのかもしれない。その一方で、いくつかの超難関大学から、お金を払って指導を受けに来る野球部員がいる。ラオウ杉本効果もあって、プロ野球選手も、周囲が田畑に囲まれた根鈴道場を訪れている。

 なぜか。

 教える内容は、決して「空振りか一発か」というような丁半ばくちのスイングではないからだ。むしろ確率を高める打法だ。ミートポイントを捕手寄りしても打てる技術を目指し、逆方向の右打ちも大切にしている。ラオウ杉本に最初、「あんたが3割打ったら、ホームラン30本は楽勝でしょう」と伝えたことからも、確率重視であることがわかる。要は、安打になる確率を高め、その安打の中に占める本塁打の割合を増やそうとしているのだ。結果的に、変化球のボール球によく手を出していたオリックスのブンブン丸は今季、本人の努力があって、打率3割をマークした。

 打撃フォーム、投球フォームで最先端の分析が進む米国では、根鈴さんが唱える「下から振る」というスイングは全く珍しくない。SNSなどの普及によって、日本でもプロアマを問わず広まっている。根鈴さんはこう強調する。「これまでのスイングには上からがあって、横からもあった。じゃあ何で、下からがないの?」。“下から”という考えに納得する人は、子を持つ親からアマ、プロの選手まで、確実に増えている。

 根鈴さんの野球人生は波瀾万丈だ。日大藤沢高を1年で中退し、新宿山吹高を経て、23歳で法大へ進学。卒業後の2000年にバット1本で米国へ渡り、1シーズンで、ルーキーリーグから3Aまで駆け上がった。メジャーリーグには届かなかったものの、NPBを経ずに本場を戦った「開拓者」だ。米国、メキシコ、カナダ、オランダ、日本の独立リーグでもプレー。挫折も人一倍経験したことを肥やしにして、現在、在野のプロコーチとして飯を食っている。

 3Aに身を置いたころ、会心の打球がフェンス直撃で終わることがたびたびあったという。「向こうで評価をされるのは本塁打。もう少し、スイングに縦の要素が入っていて、角度が付いていれば」という後悔が、バットのヘッドを下から上に使うスイング理論の出発点になった。

 「野球は無差別級」が口癖。体格によるクラス分けがない競技で、規格外のパワーを持った連中とメジャーをかけて争った経験から「教科書に載っている技術では勝てない」と、常識に縛られないアプローチを続ける。

 プロやノンプロレベルで柵越えを量産するためには、「体重と肉体の強さが必要」という前提を示しながら、後々のトレーニングでそれは補えると考えている。よって、子どもも高校球児も「先天的な身長で本塁打を諦める必要はない」と強く訴える。どのスポーツでも、昔は良しとされていた技術や理論が、科学の進歩とともに見直されてきた。今は火星的と思われている根鈴さんの考えだって、近い将来、一般的になる可能性はあるのだ。(記者コラム・倉世古 洋平)

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