【藤川球児物語(31)】「セーブや記録に興味ない」チームのために腕振り続けた

[ 2020年12月13日 10:00 ]

08年4月24日、同点の延長12回から登板して無失点に抑え、矢野(左)と笑顔で握手する藤川

 契約更改の席で「メジャーに挑戦したい」と将来の夢を伝えた上で、「タイガースで絶対に優勝する」という誓いを立てた08年シーズン。年末年始を家族と離れ、フロリダでの自主トレに取り組み、筋肉量を増やし、脂肪を減らす肉体改造を行った。06、07年にV逸の悔しさを味わった分「自分を変える」ことにこだわった。

 開幕前に本紙に寄稿した独占コラムで「チームは完璧に近い状態。一人一人の目がギラギラしている。優勝できる雰囲気は十分にある」と手応えを伝えた。入団10年目。若手にアドバイスを送るなど、自覚も強くなった。すべては優勝のため、そう信じていた。

 開幕から順調にセーブを積み重ねた。監督・岡田彰布もイニングまたぎを避け、9回だけに集中できるように登板には配慮した。4月9日の中日戦(甲子園)では荒木雅博、井端弘和、李炳圭(イビョンギュ)を3者連続空振り三振。「結果がすべて。必死ですから」と試合後はすぐに次に目を向け続けた。

 開幕14試合目となった4月13日の横浜戦(横浜)で自己タイの9試合連続セーブをマーク。チームも藤川の好調に呼応するように、11勝3敗と開幕ダッシュに成功。首位をキープし続けた。

 「誰かが引っ張ってるんじゃなく、一人一人がチームを引っ張っている感じ。こんな感覚や雰囲気は初めて。体はきついけど、チームが勝ってくれたらいい。セーブや記録には興味ないです」

 その言葉を証明するシーンがあった。藤川は4月23日の中日戦(ナゴヤドーム)で1点リードで9回を抑え、11試合連続セーブで、93年の田村勤が作った球団記録を更新。さらに広島・大野豊が持つ開幕から12試合連続セーブの日本記録にあと「1」と迫っていた。

 だが、翌24日の中日戦では同点で迎えた延長12回裏に背番号22はマウンドに向かった。セーブはつかない。記録も止まる。あるのは敗戦か引き分け。だが、カード負け越しを阻止するために全力をふるった。無失点に抑えたときの笑顔を本紙のカメラは逃さなかった。これが球児の姿だ。 =敬称略=

続きを表示

2020年12月13日のニュース