気がつけば40年(16)クロマティ頭部死球で緊急入院 退院したその夜に劇的な代打満塁決勝弾
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【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】1986年10月3日、ヤクルト―巨人戦(神宮)。3―3で迎えた6回2死、塁が全て埋まったところで巨人・王貞治監督は勝負手を打った。1番・松本匡史に代打・クロマティを送ったのである。
背番号49がグラウンドに姿を見せるとスタンドは大きくどよめいた。クロウは前夜、高野光の145キロ直球を右側頭部に受けて昏倒。救急車で近くの信濃町、慶応病院に搬送された。検査の結果は骨にも脳内部にも異状はなく「頭部打撲」と診断されたが、そのまま入院した。
この日は午前9時過ぎに再検査を受け、11時に退院。広尾の自宅マンションで静養してから球場入りし、ユニホームに着替えてベンチに入ったのは午後6時30分の試合開始5分ほど前だった。
手負いの主砲が打席に向かうと、どよめきは大歓声に変わった。巨人軍史上最強助っ人は初球からマウンドの尾花高夫に向かっていった。ファウル、ボール、ファウル。迎えた4球目、シュート気味の外角球を捉えると、打球はバックスクリーン左へ。代打満塁ホームランとなってスタンドに飛び込んだ。
ガッツポーズでダイヤモンドを一周したヒーローはベンチ前で王監督ときつく抱き合った。男と男の抱擁。二人の目には熱いものがあふれていた。
この半年前、二人が険しい表情で対峙している場面に遭遇した。いや、連れて行かれたという方が正しい。
4月24日からの大洋(現DeNA)3連戦だった。守備の乱れから逆転されて初戦を落とし、王監督が激怒。翌25日午後1時、多摩川グラウンドに全員集合をかけた。ナイターを控えた昼間の懲罰練習である。クロウはふてくされ、グラブを蹴るなどあからさまに反抗的な態度を取っていた。
野球道具を粗末に扱っちゃいけないが、気持ちは分からないでもない。私が近づいていったらクロウは話し始めた。二人っきりのつもりだった。
「アメリカに帰ったら仲間に話すよ。このジャパニーズスタイルの練習のことをね。でも、誰も信じないだろうな」
私は返した。
「違うよ。これはジャパニーズスタイルじゃない。ジャイアンツスタイルなんだ」
「ホント?ジャイアンツ・オンリー?」
他の記者も集まってきたので、会話は早々に打ち切った。からかい半分の個人的なトークだったから私は記事にしなかったが、後ろにいたライバル紙の記者が最初から全部聞いていたらしい。「クロマティ造反」。でっかい見出しをつけ、1面に私とクロウのトークを掲載したのだ。
その新聞が出た日、つまり3連戦最終日の26日。横浜球場へ行くと、すぐ巨人の通訳から「永瀬君、ちょっと来てくれないか」と呼ばれた。三塁側ロッカーへ連れて行かれて扉を開けると、王監督とクロウが互いに険しい顔でにらみ合っていた。
「説明してくれないか」
王監督に求められて、一部始終を話した。記事には私が言った言葉をクロマティがしゃべったように書いてある部分もあった。「ジャイアンツスタイルと言ったのは僕です。クロウはそれに対して…と返しただけです」。丁寧に話すと王監督は分かってくれた。
首脳陣批判は罰金など厳罰の対象になるが、クロウは一切お咎めなし。私も胸をなで下ろした。
で、半年後の劇的な代打満塁弾である。
この試合、私は1面のメーンではなく2面の斎藤雅樹の原稿を書いた。斎藤はこの年は主に中継ぎとして使われていて、3回から5イニングを2安打無失点。勝利投手になって6勝目を手にした。
抑えただけじゃない。6回2死一、二塁から二塁内野安打を放ち、クロウ満塁弾のお膳立てをしたのだ。「代打を出されると思ったんですが、監督さんに“自分で打ってこい”と言われて…」という談話を使っている。
9回にも1点を追加して8―3で快勝した巨人。連勝を7に伸ばし、この時点で2位・広島に2・5ゲーム差の首位に立っていた。といっても残り3試合の巨人に対し、広島は8試合。直接対決はなく、互いに全勝すれば勝率の差で広島が上に行く。広島にマジック8が点灯していた。
巨人は残り試合を全部勝って広島にプレッシャーを掛けたいところだったが、10月7日のヤクルト戦(神宮)。6回にクロウの逆転2ランが飛び出した直後、槙原寛己がマーク・ブロハードに再逆転2ランを許し、連勝は8でストップした。
一つ負けられる余裕が生まれた広島は勝ち続け、シーズン129試合目となる12日のヤクルト戦(神宮)で優勝を決めた。(特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの64歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。還暦イヤーから学生時代の仲間とバンドをやっているが、今年はコロナ禍でライブの予定が立っていない。
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