気がつけば40年(10)1983年日本シリーズ 最後に狂った中畑と江川、山倉によるVシナリオ
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【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】第3戦に続いて第5戦もサヨナラ負け。2勝3敗と王手を懸けられた西武の広岡達朗監督は無言のバスが宿舎の池袋サンシャインプリンスホテルに着くと、全員を大広間に集めた。
「マイクを持つとカラオケを1、2曲歌いたくなるな」
選手の前で初めて口にした冗談で空気を和らげ、続けた。
「ここまでは予定通り。所沢へ帰ってウチが勝つことになっている」
西武は投手陣に無理をさせていないことを強調した上で「江川はこれまで通り打てる。西本はへばってきているから次は必ず打てる。巨人とは練習量が違う。スタミナは絶対にウチの方が上だ」。暗示をかけたのである。
翌日の移動日、第6戦を控えた東京・立川の巨人宿舎、ホテルニュープラザでは中畑清、江川卓、山倉和博の3選手が緊急ミーティングを開いた。中畑がグラスを傾けながら江川に話しかけた。
「このままじゃ終われないだろ」
江川はシリーズ開幕前、多摩川での100メートル10本のインターバル走で右太股裏を肉離れした。故障を隠して第1戦に先発したが、2回6失点KO。第4戦は6回の攻撃で自ら右中間へ勝ち越し打を放ちながら、激痛で二塁まで走れず、代走の中井康之と交代した。6回3失点。勝ち投手の権利はあったが、後続の投手が逆転された。
残り2試合の先発投手は決まっていた。第6戦が槙原寛己。第7戦は第1戦完封、第5戦2失点完投で2勝を挙げている西本聖だ。江川が汚名返上するには第6戦のリリーフしかない。中畑が言った。
「おまえが最後を締めるような試合展開を絶対に演出するから。ちゃんと準備しとけよ」
仲間の言葉は心に響いた。第6戦、江川は1―0で迎えた5回から準備を始めた。一塁の守備位置から三塁側のブルペンがよく見える。中畑は「あの怪物が、こんなに早くから…。絶対やってくれる」と確信した。
江川がブルペンに入った5回、石毛宏典の左中間適時三塁打で追いつかれ、6回に大田卓司の左越えソロで逆転された。だが、これですんなり終わるシリーズじゃない。1点を追う9回、好投を続けてきた杉本正から2四球を選び、2死一、二塁で中畑の打席が回ってきた。
カウント2―2からの6球目。外角シュートを捉えた打球は右中間を割った。二塁走者の篠塚利夫(のちに和典)に続いて一塁走者の原辰徳が両手を突き上げてホームを駆け抜ける。中畑は三塁にヘッドスライディング。起死回生の逆転三塁打だ。約束通りの試合展開を演出し、MVPに内定した。江川の気持ちも最高潮に達していた。
「9回1イニングを抑えれば終わる。第1戦、第4戦で先発したときは足が痛い中、ある程度のイニングを投げなきゃいけないし、次の登板のこともある。カーブでかわすしかなかった。でも、もう先のことを考える必要がない。足が切れてもいい。次の年に投げられなくなってもいいから、ストレートを力いっぱい投げようと思った」
ところが…。逆転した直後、ベンチから西本が飛んできて、投球練習を始めた。まさかと思ったが、藤田元司監督が球審に告げたのは「ピッチャー西本」だった。このシリーズ絶好調の雑草エースを胴上げ投手に指名したのである。
その西本が1死から山崎裕之、代打・片平晋作、代打・鈴木葉留彦、石毛に4連打を浴びて同点にされてしまう。その後の1死満塁はしのいだが、一度気持ちを切った江川に延長戦10回の登板は酷だった。
全力投球ができた1点リードの9回と先が見えない延長戦。2死一、二塁から伏兵の金森栄治に3球続けたカーブを捉えられた。打球は極端な前進守備を敷いていた左翼手ヘクター・クルーズの頭上を越えた。日本シリーズ史上初となる3度目のサヨナラ決着を招いたのである。
江川は37年たった今でも「9回に投げていたら絶対に抑えてた」と断言する。それほど悔しかったのだ。
Vシナリオが崩れた巨人に対し、西武としては広岡監督が「西本は次は必ず打てる」と話した通りの結果になった。
雨で1日順延となった第7戦。先手を取ったのは巨人だった。3回、山倉の左越えソロで先制。5回には松沼博久の一塁への悪送球で2点目を挙げた。
だが、西本が7回に力尽きる。この回先頭のスティーブ・オンティベロスに中前打を許し、田淵幸一は四球。無死一、二塁から大田卓司の投ゴロを捕れず(記録は安打)満塁とし、テリー・ウィットフィールドに走者一掃、逆転の左中間二塁打を許したのである。
第3戦、第5戦とリードを守り切れなかった東尾が今度は最後まで投げ切った。夕闇迫る西武球場。広岡監督に続いて田淵の大きな体が宙を舞った。
第3戦以降はすべて7回以降の逆転劇で決着した巨西対決第1ラウンド。スリルとドラマが詰まった死闘は、今でも私の中で史上最高のシリーズであり続けている。(特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの64歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。還暦イヤーから学生時代の仲間とバンドをやっているが、今年はコロナ禍でライブの予定が立っていない。
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