【内田雅也の追球】甲子園が待っている ようやく本拠地開幕 阪神園芸「ほぼ最高の状態」

[ 2020年7月7日 08:00 ]

雨に濡れる6日の甲子園球場
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 外壁を伝う蔦(つた)が雨に打たれ、鈍く光っていた。懸垂幕や球団旗が強風に揺れ、留め金がカタカタと音をたてていた。6日午後の甲子園球場である。

 新型コロナウイルスの感染防止のため、そして休業日のため、球場内に立ち入ることはできない。聞けば、雨が降り始めた5日からグラウンドにはシートを敷いているそうだ。

 「最高に近い状態だと思います」と阪神園芸甲子園施設部長・金沢健児は言った。電話での取材に応えてくれた。「今回シートを掛けるまで、十分に雨を吸っています。土に理想の水分量を保つには通常の散水ではとても追いつきませんから」

 ホースでの散水を雨量に換算するとたった1ミリ程度。今回は1日で80ミリ近く降った日もあった。

 金沢は著書『阪神園芸 甲子園の神整備』(毎日新聞出版)で<雨はグラウンドの味方だ>と書いた。先人の名物グラウンドキーパー、藤本治一郎から伝わる教えだ。藤本の著書『甲子園球児 “一勝”の土』(講談社)には<「土は生きもの」であるから、やはり雨の降るときは雨に打たせたほうがいい。それをシートでシャットアウトすると、土は拗(す)ねるのだ>とあった。

 「水はけは抜群です。イレギュラーバウンドも全くないとは言えませんが、選手にはプレーしやすい状態だと思います」

 阪神が最後に甲子園を使ったのは6月17日の練習だった。その後、東京に移動した。コロナ禍で移動を少なくする変則日程のため、19日の公式戦開幕後はロードが5カード続いた。毎年夏の長期ロードよりも長い。選手たちは6日、ようやく自宅に帰ったのだ。19泊20日に及ぶ長旅だった。

 この間、阪神園芸のグラウンドキーパーたちは毎日、整備を続けた。グラウンドを使うイベントはなかった。阪神2軍が6月23~25日のウエスタン・リーグ公式戦で2軍が使っただけで「時間の制約もなく存分に整備ができた」。芝生に空気を入れる「エアレーション」など更新作業や、本塁や投手板も新調した。万全の状態で、きょう7日の甲子園開幕戦に備えている。

 「一時期は“今年はもう野球は無理かな”と腹をくくっていました。悲観的になっていたところに、その後、前向きな話がどんどん増えてきて……。こうして甲子園に野球が帰ってくると思うとうれしいですし、感慨深いものがありますね」

 甲子園も喜んでいる。英語で野球場をいう「stadium」や「ballpark」を受ける代名詞は普通「it」だが、古い文献で「she」の例を読んだことがある。1939年、カナダ・モントリオールのロリミエ・スタジアムに関する文章だった。古今東西、野球場には選手を包み込む女性的なやさしさがあるのかもしれない。母なる甲子園である。

 長旅の戦績は4勝10敗だった。それでも苦しみながら、猛虎たちが懸命に戦ったことを知っている。きっと、甲子園はあたたかく、迎えてくれる。甲子園が待っている。=敬称略=(編集委員)

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