【内田雅也の追球】ため息のような汽笛 港に帰れぬ「船乗り」 零敗で3連敗の阪神

[ 2020年6月27日 07:00 ]

セ・リーグ   阪神0―6DeNA ( 2020年6月26日    横浜 )

8回、オースティン(左)に2ランを打たれた小川
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 横浜スタジアムから歩いて10分足らずの所に山下公園、横浜港はある。試合中、港から「ボーー」と汽笛が聞こえた。

 昨年までも聞こえる時はあったのだが、今は無観客なので、はっきりと聞こえた。山下公園を出た観光船マリーン・ルージュだろうか。

 汽笛が鳴ったのは、4回表無死一塁の阪神の攻撃。北條史也がバスター・エンドランで遊飛、作戦が失敗に終わった直後だった。あの「ボーー」という音は阪神ファンのため息だろうか。

 バスター・エンドランは北條の得意技である。今春3月22日ヤクルト戦(神宮)、練習試合再開の6月2日広島戦(甲子園)で相次いで成功させた。当欄で十八番(おはこ)と書いていた。この日は低め速球を打ち上げてしまったのだった。

 船の汽笛で思い出す。野球というスポーツについて「船乗りの思想」があるとノンフィクション作家・佐山和夫から教えられた。著書『野球とクジラ』(河出書房新社)の「はじめに」で、アメリカ野球学会(SABR)に出た際、会員から聞いたそうだ。打者が走者となり、一、二、三、本塁と回って得点するという特徴についてだ。

 「私に言わせれば、ダイヤモンドは海。打者は船乗り。彼は雄々しく大海に立ち向かい、無事にホームに帰ろうとする。三塁までいっても、ホームに戻らないことには何にもならない。この考えは間違いなく船乗りの思想だ」

 海を巡り、無事に港に帰ることこそ、重んじられる。確かに船乗りの考え方である。

 ならば、阪神は今季、海に出ること(出塁)も、港に帰ること(得点)も、あまりにも少ない。この日は結局、5安打零敗だった。

 相手先発が難敵左腕の今永昇太で、対左腕実戦25打数無安打のジャスティン・ボーアを先発メンバーから外した。打撃好調の糸井嘉男も体調面を考慮して外した。新オーダーも不発だった。
 野球では、昔から「どんな試合も3度は好機がある」と言われる。この夜も回の先頭打者出塁が3度あった。

 先に書いた4回表無死一塁。7回表無死一塁は3番起用した大山悠輔に代走・荒木郁也まで送りながら、ジェフリー・マルテ三ゴロ二封で走者が入れ替わった。8回表無死一塁はバントで送ったが、適時打を欠いた。

 開幕から7試合の総得点はわずか10点。1試合平均にすれば1点あまりの貧打線である。チーム打率1割台(1割9分3厘)とどん底の状態である。

 「野球はボールではなく、人間が得点するスポーツ」と、かつて箕島高の名監督だった尾藤公(故人)が話していた。「佐山さんの受け売り」と聞いた。「だから試合の流れを見極める、冷静な判断をするなど人間力が問われる」

 野球は人間的なのだ。ならば、開幕から貧打貧攻が続く阪神は精神的な焦りや重圧も募っていることだろう。

 そんな精神状態が悪循環を呼んでいる気がする。2番手に新人の小川一平を起用した継投はまたも裏目に出た。7試合中、5試合で2番手投手が失点したことになる。ジョン・エドワーズも守屋功輝も右肩不調で登録抹消となり、持ち味の救援陣も苦しい状態だ。開幕早々に阪神は窮地に陥っている。

 港には入ってくる船もあれば、出ていく船もある。「入船あれば出船あり」という言葉がある。船は一つのところにとどまってはいない。世の中は移り変わる、といった意味だ。
 阪神の船乗りたちがどんどん出港し、無事に帰港する日を今は待ちたいと思う。=敬称略=(編集委員)

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