阪神・横田 2軍引退試合で奇跡のバックホーム「神様が後押し」1096日ぶり公式戦で最高の花道

[ 2019年9月27日 05:30 ]

8回2死二塁、塚田の中前打を好返球する横田(撮影・亀井 直樹)
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 阪神・横田慎太郎外野手(24)が26日、ウエスタン・リーグのソフトバンク戦で引退試合に臨み「奇跡」を起こした。2016年9月25日以来、1096日ぶりの公式戦出場で8回2死二塁から中堅の守備に就くと、直後の打者の中前打を処理しノーバンドの本塁送球で補殺を記録。脳腫瘍からの復活を目指し苦闘してきたプロ野球人生最後のプレーで多くの人の心に感動を刻み込んだ。

 奇跡のエンディングに誰もが言葉を失い、歓喜した。野球の神様が描いた脚本は粋すぎる。横田が、現役最後に見せたワンプレーに想像していなかった筋書きが待っていた。

 「バックホームも、練習でも投げたことがない球が投げられて、今まで諦めずにやってきて本当に良かった」

 同点の8回2死二塁で塚田の放った打球は中前で弾んだ。ワンバウンド捕球すると、すぐさま力強いフォームで本塁送球。意思と力のこもったノーバウンド送球で二塁走者を見事に刺すと球場が沸いた。守ったナイン、ベンチ前のチームメート、1軍練習から駆けつけた選手が手をたたいて喜び、打った塚田も「すごいな。野球の神様っているんだ」とつぶやいた。

 「全然言われてなくてびっくりした」

 当初は9回の1イニング限定で守備に就く予定だったが8回2死二塁の場面で平田2軍監督から声がかかった。状況を飲み込めないまま、大歓声をバックに全力疾走で「定位置」へ。試合後、横田の両腕には鳥肌が立っていた。

 「自分でもあんなに前に出られるとは思っていなくて。誰かが前に押してくれたんじゃないかというぐらい足が進んで。本当に神様が後押ししてくれたのかな。全くきれいには見えなかったんですけど、グローブに入ってくれた」

 脳腫瘍の後遺症で視力が戻らず、普段なら後逸してもおかしくなかった。見えないものが捕れた。下がるはずの一歩が前に出た。6年間ずっと全力で駆けてきた男は「(現役での)ベストプレーです」と断言した。今季に入り引退を決断するまでの1年間は不眠に陥り、便も出ず、強烈な異臭がする屁(へ)が出続けた。「地獄というか本当に辛かった」。実は目も昨年に比べて見えづらかった。原因はストレス。自分に負けそうな苦闘を乗り越え、最後に見せた「奇跡のバックホーム」だった。

 寮の部屋には、汗でクタクタになった何枚ものトレーニングウエア、折れたバットなどが大量にあるが、そのすべてを鹿児島の実家に郵送した。「練習着1枚、折れたバット1本、全部が僕の宝物なんです。1枚たりとも処分できない」。野球が「思い出」になる時がやってきた。

 「自分を信じて練習をやってきて良かった」。もう未練はない。横田慎太郎は、野球をやりきった。(遠藤 礼) 

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2019年9月27日のニュース