球児に根づいた「今日の一善」~引退後も生き続けるメッセの精神

[ 2019年9月18日 16:20 ]

阪神・メッセンジャーから届いたサイン入りユニホームを國田敦校長から受け取る京都共栄の三木慶太選手(2018年8月23日、京都・福知山市の同校)
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 【内田雅也の広角追球】ランディ・メッセンジャーの引退会見の後、記者団に囲まれた阪神・揚塩健治球団社長が「内田さんの顔を見て思い出しました」と披露した逸話がある。昨年11月6日付のスポニチ本紙(大阪本社発行版)『内田雅也の追球・特別編』で書いた高校球児との交流である。

 京都・福知山花火大会の屋台爆発事故(2013年8月15日)で全身大やけどを負った三木慶太君(当時小学5年生)が苦難を乗り越え、京都共栄高野球部1年生で投手として奮闘している。ヴェネッサ夫人がインターネット上の記事を翻訳ソフトで読み、聞いたメッセンジャーが、三木君に直筆メッセージの入った著書『ランディ・メッセンジャー~すべてはタイガースのために』(洋泉社)やレプリカユニホームなどを贈り、甲子園球場に招待した。

 揚塩社長は「メッセンジャーが残してくれたのは偉大な記録だけではありません」として披露した。「社会貢献や慈善活動をする姿勢を身をもって示してくれた。タイガースにレガシーとして残してくれました」

 メッセンジャーの精神が残るのは阪神ばかりではない。引退発表があった13日、三木君は野球ノートに「メッセンジャー投手にお礼の手紙を書きたい」と記した。

 京都共栄高の神前俊彦監督(63)は「受け取ったメッセージはチームに根づいています」と話した。甲子園球場に招待を受けた昨年10月6日、三木君家族とともにクラブハウスで約1時間も話を聞いた。

 メッセンジャーは「キープ・セイム(Keep same)」だと繰り返した。「どんな苦しい時も同じ努力を続ける」という意味だ。「いい時も悪い時も同じように努力していれば、いつか幸運が訪れる、という“キープ・セイム”は合言葉になっています」

 福知山市の高台にある同校グラウンドは今年3月4日、突然、法面(のりめん)が崩れた。元より手狭なグラウンドが内外野の一部分しか使えなくなった。復旧工事も完成していない。

 それでも神前監督は「できるスペースでできる練習を全力でやる、という精神でやっています」と困難に立ち向かう。今年夏の京都大会はエース故障で不在のなか快進撃を続け4強進出。今秋の京都大会も目下ベスト16に残り、来春のセンバツ出場を目指している。

 さらに、善行を受けたチームでは「自分たちも一日一善を心がけていこう」と誓い合った。野球ノートに「今日の一善」というコーナーをつくった。部員たちは連日「ゴミを拾った」「つきっぱなしだった電気を消した」「スリッパをそろえた」「トイレットペーパーを替えた」……と記録している。神前監督は言う。「こうした気づき、誰かがやるだろうではなく、自ら行動する。小さな善行だが、キープ・セイムでやっています」
 メッセンジャーは野球ばかりでなく、人生にも通じる姿勢を伝えていたのだった。(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 日本のプロ野球選手で社会貢献・慈善活動の範を示した阪神・若林忠志を取り上げた『若林忠志が見た夢』(彩流社)を2011年に出版。同年、阪神が球場外の活動を奨励・表彰する若林忠志賞を創設した。1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大卒。2003年から編集委員(現職)。

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