【元NHKアナ小野塚康之の一喜一憂】野手が生み出した好投
第101回全国高校野球選手権 第10日3回戦 作新学院18―0岡山学芸館 ( 2019年8月16日 甲子園 )
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甲子園のファンは敏感で、徐々にザワザワが高まりつつあった。もしかしたら平成10年決勝戦の松坂大輔(横浜)以来の快挙まであとアウト4つ。作新学院のエース、右のオーバーハンドの林勇成投手は8回2死までノーヒットノーランペース。
迎えた29人目の打者。岡山学芸館の2番、左打ちの金城祐太選手にレフト前にクリーンに弾かれてその夢は絶たれた。作新サイドは“残念”の溜め息、学芸館アルプスからは歓声と安堵の拍手。18対0というゲーム展開もあり、この1本で林投手はマウンドを降りたが、快投だった。
7回2/3、打者29、1安打2三振6四死球0失点、114球
今日の林投手を見ていて正直なところ「ノーヒットノーランを予感させる様な投球ではなかった」。本人も初戦の筑陽学園との延長10回3失点に比べて「速球のコントロールなどが不十分で80点ぐらいの出来だった。でも、野手が盛り上げてくれたので」と振り返る。その通りだと思った。野手がピッチャーの投球にどれだけ影響を与えるのかというのが良く分かった試合だった。
作新学院は野手が試合を作るチームだ。攻守ともに。
まず攻撃編だ。
1回はリズムだ。先頭が二塁打で出塁、2番の遊ゴロで三塁進塁、3番の適時打で先制、3人で得点だ。作新学院は、ほとんど犠牲バントは行わない。相手にアウト与えず積極的に攻め込んでいく姿勢である。“バントで送りたい”という部分を主に走塁でカバーしている。各選手のスタート、中間走の速さのレベルが極めて高い。やはり打撃のスポーツなので理に適っているのだと思う。
かつて千葉ロッテの元監督ボビー・バレンタインさんが甲子園の高校野球を観戦して「日本のハイスクール・ベースボールは、素質のある選手が沢山いるし、技術レベルも高く素晴らしい。一つだけ言わせてもらえば犠打が多いのがちょっと気になる。ベースボールではなくバントボールに見えるチームもある」とジョークを飛ばしたことがあるが「作新学院の攻めをご覧下さい」と言いたくなった。
ともかくリズムよく2試合続けて1回に先制、投手を楽にする。2回の追加点は下位打線の長打から犠飛。脇役は“小技を生かす”などではなく全員強く振る。ここでの走塁も浅いフライに対してスタート、スライディング共に巧みだった。投手にとっては1回投げれば1点、2回なら更に1点と加点してもらい、力が抜ける相乗効果。
3回の3得点は走者一掃の二塁打、この場面は三塁ベースコーチが光った。2死満塁で左翼線の長打、二塁、三塁のランナーは楽々生還、一塁ランナーをどうするか、フェンスから跳ね返りに対し、レフトの反応がやや鈍いのを見逃さず腕を思い切り回した。隙があれば1点でも…だ。この後も加点、6回にも1点を取り9対0。なおも1死一塁でチャンスが続く。ベンチワークも貪欲だ。
ここは再現実況で行く。
6回の表9対0、1点加えて作新学院リードを広げています。バッターボックスには6番大河内、1アウトランナー一塁。タイムリーヒットの横山、リードを取ります。ピッチャー中川、第1球を投げました。速球ボール。左のバッターボックスの大河内、ここまで3打席ノーヒット。右の中川、ワンボールノーストライクからセットポジション、第2球を投げました。打ちました、ファウル。ちょっとタイミングがずれました変化球。台風一過の青空も広がってきた甲子園。強風。マウンド上の中川セットから第3球を投げました。一塁ランナースタート、落ちたボール。キャッチャーから二塁へ送球、ランナー足から滑り込む、タッチ、セーフ、盗塁成功。ツーアウトランナー二塁。
またまたスコアリングポジションにバントを使わずに進めてきました。小針監督積極采配。さあ苦しくなりましたマウンド上の中川、丹羽をリリーフして二人目、セットポジション、間合いを取って第4球を投げました。カーブストライク。緩くきました。大河内タイミングが合わない感じ。ツーボールツーストライク、カウント回復した中川、右のオーバーハンド、セットポジション、第5球を投げました。カーブボール、スリーボールツーストライク、右足を上げてタイミングを取る大河内。この2球ちょっと合っていない感じ。
おっと、ここで三塁ベンチがタイム。キャプテン石井が攻撃のタイムで大河内に歩み寄って行きます。大河内の肩に手をかけて二言三言。6回9点リードして1死二塁。戦術的な確認は考えにくい所、ノーヒットの大河内に対してこの打席で小針監督が気付いたことがあるのでしょうか。タイムが解けて左打席に戻ります。中川セットからフルカウント、ラストボールを投げました。打ったー、捉えたー、ライト前ライナーのヒット。二塁ランナー、三塁を回ってホームイン10点目。今日ノーヒットだった大河内、小針監督のアドバイスの直後にタイムリーヒット、一塁塁上でベンチを見ています。視線の先には小針監督、小さく頷いています。そういえば今捉えたヒットの時はノーステップで打っていたように見えました。これがアドバイスなら最高の一体感です。
試合後の取材も含めて再現した。「変化球に投手方向に崩され気味だったので、タイミングを取り戻すためにノーステップ打法に切り替えなさい」という事だったそうだ。あのタイミングでタイムを取って短いアドバイスが伝わって大河内がヒットを放つ。日常的に徹底している事でないとこうはいかない。1点でも多くの姿勢の表れだ。同時に投手を楽にするのだ。
この間に林投手は2、3、4回と調子を取り戻していき、コントロールを修正してインコースを突くなど持ち味を発揮した。バックの援護点が手厚かったので冷静に一人ずつアウトにと考えられたそうだ。
さあ守備編だ。
立ち上がりを支えたのはショートの石井巧。
1回先頭の三遊間を破ろうかという強いゴロ、動物的反応のダイビングキャッチ、送球も正確で余裕をもってアウト。折角1点取ったその裏、絶対出したくないランナーを阻止。その後2死三塁でショート左の速いゴロ。三塁にランナーがいるのでプレッシャーがかかるところだが、バックハンドでグラブを差し出し、流れるような体の動きで何事もなかったかのように好送球。林投手の無失点の立ち上がりを演出した。打球的には2安打相当だ。
後半はセカンドの松尾翼とファーストの中島義明。
6回先頭にいきなり四球を与えて嫌な感じ。次打者は完璧にとらえた。一、二塁間のゴロを打った瞬間、抜けたと思ったがフットワーク良く追いついて体を反転させ、二塁へジャストタイミングでフォースアウトだ。流れを立った。
7回はまたしても先頭に四球、続く打者が難しいファーストゴロ。ミットさばき、巧みにキャッチしてサイドスローで二塁封殺し、反撃の芽を摘む。好投ながら6回、7回に2四球ずつ与えていたので守りにくかっただろうに、この辺りは見事に耐え抜いた。
7回にもセカンドの松尾がゴロの打球に美技、若い人にはピンとこないだろうが、小兵なので“今牛若丸”なんて言いたくなるくらいの動きだった。
ファインプレー、キャッチャーの盗塁阻止、いい当たりの打球も目立ったし、後半の四球の多さなどもあり、印象としては今までに眼前にしたノーヒットピッチングとはタイプが違っていた。でもちょっぴりだが、快挙は見てみたいと思った。もしこの試合で実況していたなら林投手個人の大記録ではなく“作新学院のノーヒットノーラン”と表現していたことだろう。
◆小野塚 康之(おのづか やすゆき)元NHKアナウンサー。1957年(昭32)5月23日、東京都出身の62歳。学習院大から80年にNHK入局。東京アナウンス室、大阪局、福岡局などに勤務。野球実況一筋30数年。甲子園での高校野球は春夏通じて300試合以上実況。プロ野球、オリンピックは夏冬あわせ5回の現地実況。2019年にNHKを退局し、フリーアナウンサーに。(小野塚氏の塚は正しくは旧字体)
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