控え選手の心に寄り添う――映画『泣くな赤鬼』脚本担当は元高校球児
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【内田雅也の広角追球】甲子園を目指す高校野球の監督と教え子の球児の心の絆を描いた映画『泣くな赤鬼』(6月14日全国公開)で脚本を担当した上平満さん(47)は元高校球児だ。
桐蔭(和歌山)3年の1989(平成元)年、夏の和歌山大会決勝まで進んだ。延長13回、智弁和歌山にサヨナラ負けを喫した。映画で堤真一が演じる主人公の「赤鬼先生」同様、甲子園は手の届くところにあった。
今回が劇場用映画脚本デビュー。原作は重松清の同名短編小説。『せんせい。』(新潮文庫)に収められている。公立校野球部、春の県大会優勝、夏は決勝で敗退……と「自分たちと全く一緒。あまりにも似通っているので驚いた」そうだ。
ただ、起用したプロデューサーらは上平さんが元球児だったことを知らなかったという。
「僕が野球をやっていたとも知らなかったと思います。題材は高校野球ですが、野球に力点が置くのではなく、人間の心のドラマだとアドバイスされました」
原作は短編で、映画化するには物語が短い。「重松先生の世界観を損なわないように物語を膨らませないといけない。原作ではさらっと触れているだけの1人の選手の心情を思い、感情移入しました」
それが教え子「ゴルゴ」から三塁のポジションを競う「和田」だった。当初は目立たない控え選手だったが、コツコツ努力して頭角を現す、ゴルゴとは対照的なキャラクターだ。「和田君はゴルゴのように才能のある選手じゃない。彼がどういう風に思っていたのだろうと考え、書き進めました」。1人のキャラクターが立ち上がった。
控え選手の心に寄り添ったのは、自身の境遇があったのだろう。上平さんは高校3年に進級する前の3月、コーチだった大原弘さん(53=現和歌山大監督)から「夏のベンチ入りは無理だ。学生コーチ、マネジャーに回ってください」と告げられた。監督だった河野允生(よしお)さん(2013年、73歳で他界)の判断だった。
「あーーーと思いました」と振り返る。「何となく能力的に難しいのかなとは自分でも感じていました。一方で、素直に認めてしまうのは負けだ、まだ何とかなるんじゃないかと思いたい自分もいました」
翌日から自分の練習はなく、ノッカーや打撃投手を務め、1年生早朝練習の手伝いをするなど裏方に回った。複雑な気持ちで日々を過ごした。
西浜中時代は主将だった。中学3年だった86年夏、桐蔭は甲子園出場を果たした。和歌山大会決勝で尾藤公監督(2011年、68歳で他界)とエース尾藤強の親子鷹で話題だった箕島を逆転で破っての劇的な優勝だった。上平さんも甲子園まで応援に出かけ、「桐蔭で甲子園に」と夢を描いていた。
夏の大会は記録員(スコアラー)として制服でベンチに入った。学生コーチ通達の際、「甲子園に行けばベンチに入れる」と聞かされていた。大会前の新聞地方版の記事にも監督による同じコメントがあった。「困ったなあ、監督、本気だったんだ」と思った。「美談にされたくないなあ。もう何カ月も練習していない自分が他の部員を押しのけて入るわけにはいかんやろ、というのが正直な気持ちでした」
決勝の前も「勝ったら監督に断りにいかないと」と憂鬱(ゆううつ)だった。サヨナラ負けの時、皆が泣きじゃくるなか、悔し涙は出なかった。泣けてきたのは球場の外でコーチから「おつかれさん」と声をかけられた時だった。
河野さんはまさに鬼監督だった。「すごく怖かったですね。赤鬼先生よりもっと怖かった」。今は笑って話せるが、当時は口をきくのも腰が退けていた。
今回の原作では<教えたり育てたりすることと、選ぶこととは、違う>と、赤鬼先生がベンチ入りメンバーを選ぶ際の苦悩が描かれている。
自分をベンチから外した鬼監督の苦悩も今ならよく分かる。控えの選手にも役割を与えたかったということも。上平さんが大学に合格すると、河野監督はケーキを手に自宅を訪ねてきてくれた。
上平さんは同志社大文学部英文科を卒業し、米ニューヨーク州立大ビンガムトン校に留学しビジネスを専攻した。
別に仕事を持ちながらシナリオ学校に通った。今年2月公開の『フォルトゥナの瞳』で構成協力。今回のデビューにつながった。
「堤真一さんのノックは本当に様になっていました。映画は人間ドラマですが、野球シーンも迫力があり、違和感なく描かれています。脚本は、あまり教育的にしたくなかった。先生も人間だし、失敗も後悔もする。そんな人間臭さが描けていると思います」
野球は「失敗のスポーツ」だと呼ばれる。だから、山あり谷ありの人生に似る。補欠、裏方の心情を知る脚本家が描いた人間ドラマを楽しみにしている。(編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 今回取り上げた上平満さんは桐蔭高(旧制和歌山中)野球部9学年下の後輩にあたる。鬼監督の河野允生さんは和歌山リトルリーグ時代の総監督だった。和中・桐蔭野球部OB会関西支部長。映画試写は見ていない。慶大文学部から1985年入社。大阪本社発行紙面でほぼ連日掲載、主に阪神を取り上げる『内田雅也の追球』は13年目を迎えている。
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