「最後まで諦めず戦う」関東第一、選手宣誓の言葉体現した粘り腰に注目

[ 2016年8月4日 11:30 ]

東東京大会決勝の東亜学園戦でサヨナラ打を放ち歓喜の関東第一・森川(右)

 高校野球は最後まで何が起きるか分からない――。この夏、担当としてさまざまな試合を取材させてもらい、その言葉を強く実感させられた。中でも特に印象に残っているのが、東東京代表として3季連続の甲子園出場を決めた関東第一だ。

 同校は昨夏、現楽天のオコエを擁し、甲子園4強入りを果たした強豪。昨夏から都内の公式戦は負けなしの25連勝中。この実績だけ見ると圧倒的な力を誇っているように見えるが、今年のチームにはオコエのようなスターはおらず、何度も負けそうになりながらも勝ち上がってきたのだ。

 「なぜか分からないけど、終わってみれば関一が勝ってるんだよなあ」

 都内強豪校の複数の監督から何度もこの言葉を聞いた。7月28日の東東京大会決勝もそうだった。2―2の延長10回表。東亜学園は2死二、三塁から関東第一・竹井の暴投でついに1点を勝ち越す。大半の人が「東亜学園で決まりだな」と思っただろう。しかし、この絶望的な状況を救ったのが、主将の村瀬だった。

 なお2死三塁から三遊間への内野ゴロを三塁手が捕れず、試合を決定づける追加点が入ると思われた。ところが、三塁手の後ろできちんとカバーに入っていた遊撃・村瀬が好捕し、一塁へ素早く送球して遊ゴロに仕留めた。この回、最少失点で食い止めたことが奇跡の逆転劇の始まりだった。

 10回裏は、修徳との準々決勝の9回裏に2者連続本塁打を放って劇的な逆転サヨナラ勝ちを収めた3番・米田、4番・佐藤佑と続く好打順。期待通り、この2人が連打で出塁。1死二、三塁としたところで村瀬の登場だ。同点の右前適時打。10回表に暴投で失点した竹井は、涙を流しながら11回の登板に向けてキャッチボールをしていた。

 そして、続く森川が右中間へサヨナラ打。苦しみながらも今大会3度目のサヨナラ勝ちで夏の甲子園切符をつかみ取った。攻守でチームを救った村瀬は今夏の東西東京大会開会式で選手宣誓を務め、こう言っていた。

 「東日本や熊本の震災で苦しい生活を強いられている人がいっぱいいます。今度は私たち球児が全力プレーで恩返しする番。笑顔に元気づける力があると思います。最後まで諦めずに精いっぱい、戦うことを誓います」

 主将はまさにその言葉を体現した。オコエは昨夏の引退式で、後輩たちへこんな言葉を残している。「最後は気持ちだ」。憧れの先輩の言葉を全部員が胸に刻む。関東第一ナインは試合終了の瞬間まで全員が勝つためにやるべきことを考え、実践している。米沢貴光監督も「この代の子は目に見えない強さや思いがある」と目を細める。

 8月7日からいよいよ全国高校野球選手権大会が開幕する。今年も様々なドラマが生まれるだろう。そのドラマをつくり出す大きな要因の一つは間違いなく観客だ。関東第一のような脅威の粘りにも注目しつつ、球児と一緒に夏の甲子園を熱く盛り上げてほしい。(記者コラム・青木貴紀)

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2016年8月4日のニュース