【内田雅也の追球】“最も勝負が早い投手”阪神・能見の脆さ

[ 2016年8月4日 09:05 ]

<D・神>初回から打ち込まれ、険しい表情の能見(中央)

セ・リーグ 阪神3―4DeNA

(8月3日 横浜)
 阪神・能見篤史は今のプロ野球界で最も勝負が早い投手の1人である。セ・パ12球団の規定投回数に到達している投手27人の打者1人あたりの投球数が2日付のスポニチ本紙(東京本社発行版)に掲載されていた。能見は3・71球で、井納翔一(DeNA)の3・70球に次いで少なかった。

 古い言葉で言えば「省エネ」か。制球がいいため、打者も初球など早いカウントで打ちにくる。勝負が早くなる。

 この夜も勝負は早くついた。1回裏、失策で1―1の同点とされた無死一塁、梶谷隆幸に2球目を右翼席最上段まで持っていかれた。続く筒香嘉智には4球目を左中間席に運ばれた。ともに1ストライク後だった。

 能見も相手の早打ちは承知していただろう。そんな打者にはカウント球など不要で、初球から勝負球を使う気構えで臨むのが定説である。

 「ええ、常々そう話しています」と敗戦後、投手コーチ・香田勲男も認めた。「ボールから入る必要はない。ストライクでいくが、見送りなどない、打ってくるという気でいこうと。たとえば初球で凡打に取れれば、1球で終わりますから」

 早打ち対応の姿勢はできていた。だとすれば、打たれた球が甘かった。梶谷に浴びた内角直球は高くも低くもなかった。筒香への直球も外角寄り高めで腕を伸ばせるコース。失投だろう。

 能見は前回、7月27日ヤクルト戦(甲子園)で完封勝利をあげていた。香田は「いくら調子が良くても立ち上がりは誰でも不安」と思いやった。通算317勝の鈴木啓示(スポニチ本紙評論家)も毎試合、猛烈な不安と闘った。「どう言えばいいか。暗闇の森の中を歩む、あるいはまだ見ぬ海へこぎ出す心境」と聞いた。

 能見は2回以降は代打で降板となる6回まで無安打に封じた。打者23人に76球。1人あたり3・30球と、これまで以上の快ペースだった。

 映画の原作『マネー・ボール』(ランダムハウス講談社)の主人公、アスレチックスGMビリー・ビーンは「野球は消耗戦」と位置付けた。「アウトになっても、投手に5球以上投げさせた打席はプラスとみるべきだ」と評価に盛り込んだ。

 この夜、能見が5球以上要した打者はのべ4人だけだった。消耗する前に、そして「リズムに乗る前に」(香田)やられた。勝負が早い投手の怖さが浮き彫りとなる敗戦である。 =敬称略=
 (編集委員)

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2016年8月4日のニュース