【ノルディック複合】37歳・渡部暁斗 咲いて散る美しさ見せる “転機の場所”でのラスト五輪きょう初戦
ミラノ・コルティナ冬季五輪 第6日 ノルディックスキー複合 個人ノーマルヒル(前半飛躍ヒルサイズ=HS107メートル、後半距離10キロ) ( 2026年2月11日 プレダッツォ・ジャンプ競技場、バルディフィエメ・テーゼロ距離競技場 )
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五輪3大会連続メダリストの渡部暁斗(37=北野建設)のラスト五輪が始まる。11日の個人ノーマルヒルが初戦。集大成となる五輪への思いとは――。複合界のレジェンドに迫った。
雪が舞うスタンドで視界は白く塗りつぶされていた。競技はほとんど見えない。なのに、うねる歓声と会場の熱の記憶が確かにある。28年前、1998年長野五輪。ジャンプ団体で金メダルを獲った瞬間だった。この感動が、競技者・渡部暁斗の原点である。
「雰囲気に飲み込まれた感覚があって、それがスイッチになった。これがきっかけで、ジャンプをやりたいなと思ったんです」
そして飛び込んだノルディック複合の世界。五輪初出場となった06年トリノから第一線を走り続けてきた。14年ソチ、18年平昌で個人銀の2大会連続メダル、22年北京では個人と団体で銅。そんな第一人者が、ミラノ・コルティナで最後の五輪を迎える。
「美しく終わりたい。今は燃えていて、シーズンが終わったらこの炎は消える。多分もう灯らない。好奇心の体力っていうんですかね、気持ちの面の体力がなくなっていく。それでも今季は燃え尽きる覚悟でいる」
五輪でのラストレースに選んだ場所は、くしくも渡部にとって転機となった場所だ。時は12年にさかのぼる。実績を重ねても、どこか自身に対しての期待が持てないでいた。そんな中で迎えたバルディフィエメでのW杯。通算55戦目での初優勝は今でも忘れられない。
「自分がこの世界でトップに立てるが半信半疑だったのが、勝つことができると証明できた瞬間だった。大きなターニングポイントだった」
バルディフィエメはイタリア北部のにある。世界遺産でもあるドロミテの麓にあるクロスカントリーとジャンプの名所で、世界選手権やW杯の開催地として知られる。
「今まで走った中で、一番きついっす。正直、好きか嫌いかと言われたら嫌い。昔はジャンプの選手になりたかったけど、自分の適性はコンバインドにあった。でも結果が出ていることが多いし、自分が嫌いなことと合っているのはまた違う。相性はいいのかも知れない」
集大成に向け、準備を重ねる日々は、これまでの五輪に向けた心持ちとの違いを感じた。
「今までで一番楽しみ。記録から解放されている感覚がある。今は純粋に競技を楽しんでいる。こんなに楽しいって思っていいのかな、ってくらい」
引退を表明しているから、結果を度外視している訳ではない。渡部が持つのは、結果よりもプロセスを重んじる視線。どうしたらうまくなるのか、競技の本質に近づけるのか…。その探求が、これまでも厳しい練習に挑む原動力になってきた。北京五輪後に一度は浮かんだ引退を見送った理由もその視線に沿う。
「結果じゃなくて、とにかくスッキリしないまま終わりたくなかった。マスクを取って新鮮な空気を吸うみたいに、フレッシュに競技をやりたかった」。コロナ禍で生じた「消化不良」を、自分の手で解いてから終わる。それが延長の理由だった。
渡部の頭には、あるフレーズが浮かぶ。吉田兼好の徒然草の一節。「花は盛りに、月は隈(くま)なきをのみ見る物かは」。花は満開、月は満月のときだけが美ではない。咲いて散るまでのプロセスに美を見出す。五輪用のヘルメットも、徒然草をモチーフにしている。
「散り際だけじゃなくて、散っていたはずの桜が冬に満開になったら、それも面白いじゃないですか。奇跡的なレースを見せられたらいい」
優勝者が「King of Ski」と称されるノルディック複合。五輪史上初となる前人未到の4大会連続メダル獲得も懸かる。27年前に自身が感じた熱狂を、バルディフィエメで巻き起こす。
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