東京五輪、上を向いて歩こう。1年延期 歓声なき開会式
東京五輪 開会式 ( 2021年7月23日 国立競技場 )
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フィナーレは大坂なおみだった。聖火が燃え盛る。「TOKYO2020」開会式は2021年の7月23日だった。美しく大きな花火があった。ドローンもあった。プロジェクションマッピングもあった。なかったのは観衆の声だ。
入場行進曲として最初に流れたのは「ドラゴンクエスト」だ。自らの肉体と心を極限まで鍛え上げてきた勇者の行進。しかし、それを見届けた観衆はいない。テレビゲームの勇者をじかに見ることができないように。
毒を消す呪文「キアリー」が使えたら、こんなことにはならなかった。
国立競技場の色分けされた座席は一見、誰かが座っているように見える。しかし本当は誰もいない。
アスリートの笑顔は半分しか見えない。マスクをしているからだ。行進は距離を取って続く。
1964年10月10日。一片の雲もない秋空が437人の大選手団を祝福した。観客席には7万人以上の観衆がいた。高揚と期待があった。誰もが未来を疑ってはいなかった。
そして今。
少しの期待はある。しかし手放しの高揚はない。若干の期待もある。しかし、それを上回るのは、これから起こるかもしれないことへの危惧だ。
57年後の夏の夜、国立競技場に漂うのは日本人の疲れだ。
マスクを通して呼吸しているうちに、世紀の祭典は輝きを失っていった。日本という国の実力を疑わざるを得ないことも多かった。64年の東京では開会式の9日前に東海道新幹線が開業した。2020では数日前になって多くの恥ずべき出来事が起こった。
連日報じられる感染者数と比例し、日本人の分断は進んだ。不信が怒りを招き、怒りは増幅して、亀裂は深くなった。
国立競技場の外では意見の異なる人たちのいさかいも起こった。
本来、五輪の目的とはスポーツを通じて相互の理解を深め合い、平和な世界をつくることだ。それを最優先しないさまざまな人たちの、さまざまな思惑が絡み合い、その目的を達するのは難しく思える。
しかし、こんなときだからこそ、スポーツの持つ力に希望を託したい。
観客の声援も皆無に近い中でプレーするアスリートの姿を通じ、私たちは何かを得ることができないか。
自信を取り戻すきっかけにならないか。
勇気に形を変えることはできないか。
上を向いていないと、涙がこぼれてしまうような今を生き抜く力にはなり得ないか。
アスリートに私たちの希望を重ね合わせることは勝手な思い込みなのかもしれない。余計な重荷を背負わせることでもあるだろう。
入場行進の最後。155人の日本選手団が歩く。パンドラの箱に残った最後の一つに送られる歓声はない。私たちの「希望」が健康を保ち、ベストを尽くすことを心から願う。(東京本社編集局長・田村 智雄)
《1964年東京五輪開会式プレーバック》前回の東京五輪開会式は、64年10月10日の土曜日、国立競技場で行われた。前日までの雨も上がり、秋晴れの好天。午後1時50分に五輪序曲が流れ、天皇陛下がロイヤルボックスに姿を見せられると君が代が演奏された。
93の国と地域が参加し、五輪発祥の地、ギリシャ選手団が先頭で入場開始。開催国として、役員を含む437人の日本選手団が最後に行進し、約5000人の参加選手たちがフィールドに整列した。
開会宣言は、陛下が自席から起立し、「祝い」という文言を使った。その後、3発の祝砲が発射され、1万2000個の風船が大空へ。聖火リレーの最終走者は広島で原爆が投下された45年8月6日に生まれた早大生・坂井義則さんが務め、トラックを半周し、聖火台に点火。選手団主将の体操の小野喬は「スポーツの栄光とチームの名誉のために、真のスポーツマンシップ精神をもって大会に参加することを誓います」などと宣誓した。
その後、フィールド周囲から8000羽の鳩が放たれ、航空自衛隊のジェット機が上空に5色の五輪を描いた。
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