7人制躍進の鍵を握るデータ分析 日本のラグビーがもう一度、世界を驚かせるには――

[ 2020年1月21日 09:00 ]

2020 THE PERSON キーパーソンに聞く

7人制代表のアナリストを務める中島正太氏(撮影・吉田 剛)
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 16年リオデジャネイロ五輪で4強入りを果たした7人制ラグビー男子日本代表だが、その後の成績は低調だ。一方で4年前も低い下馬評を覆し、初戦でニュージーランドを破った。競技レベルが年々向上する中、悲願のメダル獲得は実現できるのか。15年秋からアナリスト(分析)を務める中島正太氏(34)がチームの現状や展望を語った。

 4年前に初めて五輪に登場した7人制ラグビーは、現在も急速な進化のさなかにある。以前は多くの国で、本流である15人制の支流が7人制の位置付け。だが09年10月のIOC総会でリオ五輪での採用が決まると、各国は急速に強化に力を入れ、専門性も進んだ。7人制のみをプレーする20人程度を集中強化する「セントラライジング」と呼ばれる強化方式の導入も、その一つだ。

 中島氏は「リオの前、日本とニュージーランドだけが、それをやっていなかった」と指摘する。優勝候補の筆頭格だったニュージーランドは初戦で日本に敗れるなどし、結局メダルなし。日本は快進撃を続けたが、あと一歩、届かなかった。王国はその後、同方式を導入。日本は世界の潮流から取り残されたが、今年はようやく、代表候補がトップリーグに出場せずに集中強化できる体制が整った。

 進化は数字にも表れている。最高峰の国際サーキット大会であるワールドシリーズ(WS)の統計によると、12~13年は1試合平均33点だったが、18~19年は39・4点に増加。ラックやモールを介さないトライの割合は減っており、ディフェンスシステムの発達も明らかだ。そんな中で着目するのが、競り合いになるキックオフの増加。「以前より6、7%増えている。7人制は得点側がキックオフするので、再獲得して再びトライを取れるかどうかが非常に重要」。日本にとっても伸びしろの大きい分野だ。

 高身長の選手を並べれば即刻解決するが、その点で日本は人材不足と言える。それを補うのが中島氏の分析力。「ポッド(選手2、3人の群れ)を避けて蹴るか、ポッドがあっても場所にこだわり蹴るチームか。相手を分析し、どんな布陣にするか、ポジショニングをどうするか、ベストジャンパーをどこに置くかを工夫する」。体格を知恵で補うためにも、本番当日まで綿密な分析は続いていく。

 それでは個々の選手に求めるものは何か。「チームが目指すものは明確で、数的優位をつくる。そのためのスタンダードは以前より上がった」。一度に出場する選手の母数が小さい7人制では、数的優位がトライに直結する。そのためタックル後に立ち上がるまで1秒、ボール保持者が次のプレーに移行するまでは1・5秒と制限時間を設定。以前はタックル後の起き上がり時間を3秒に設定していたというから、相当に高い目標値と言える。

 独自の評価項目を策定し、数的優位をつくり出す試みもある。「グレートキャリー(GC)」と名付けられた項目で、前進距離にかかわらず、最終的に接点付近で数的優位をつくればGCに数えられる。そして「ライトニング・クオリティー・ボール(LQB=瞬時の質の良い球出し)」を導き、トライにつなげる。「現状は勝敗にどれだけ影響するかを見定めている」段階だが、こうした指標を有効活用できれば、より客観的に結果を生む戦術を立てやすくなる。

 試合の流れが速く、15人制以上にコーチの指示伝達が困難な7人制で、選手の自主性を育てる試みも行ってきた。「以前はトップダウンの構造。ただリオではコーチ陣で用意したものだけでは限界があると気づいた。だから最初の2年は(分析や戦術の)落とし込みを、あえてやらなかった」。選手は自ら戦術を練って試合に臨んだ。成績は低迷したが、徐々に戦術の質は向上し、自主性が育った。昨年11月、フィジーで行われた国際大会では、ニュージーランドに17―14で勝利。サモアにも勝って3位に入り「選手が分析し、こう戦おうと準備して、勝利を収めた。(選手は)自信を得た」と成果は実りつつある。

 こうした流れの中で、中堅に差し掛かった松井千士や藤田慶和がゲーム主将を務めるなど、リーダー格の選手も複数育ってきた。「マルチスキル」を合言葉に、FW、バックス関係なく、どんな役割もこなせるようにと技術の会得も推進する。「12人が複数ポジションをこなすプラス、スペシャルなスキルを持つことが選考基準にもある」と中島氏。開幕まで185日。「どの国よりも、五輪に焦点を当てている」という準備が全て整った時、再びラグビーで日本が世界を驚かせる瞬間が訪れる。

 ≪アスリート能力求められる「世界一の鬼ごっこ」≫岩渕健輔ヘッドコーチが「世界一の鬼ごっこ決定戦」という7人制ラグビー。指揮官は「アスリート能力が求められる」と力説するが、実際に数字にどう表れているのか。中島氏が参考に挙げたのが、17年にニュージーランドの研究者が発表した論文の数値だ。それによると7人制の1試合の総走行距離は、80分換算で15人制を2000メートル以上も上回る。さらに最速走行時の51%以上で走る距離の80分間換算値は、15人制の約4倍となる。「セブンズが15人制の4倍しんどいと言われる証拠」となる数値だ。
 だからこそ7人制への専門性が求められ、トレーニングや練習内容も15人制と大きく異なる。五輪2大会連続出場を目指す福岡堅樹も、競技性を乗り越えるアジャストが必要となる。

 ▽7人制ラグビー 1チーム当たりのオンザピッチは7人で、5人のリザーブを含む12人で1チームを編成。試合時間は前後半7分の計14分間で、15人制と同じ広さのフィールドが使用される。基本的なルールは15人制と同じだが、得点後は得点側のキックオフで再開、スクラムは3対3、コンバージョンやペナルティーキックはドロップキックで行われるなどの違いがある。

 ◆中島 正太(なかじま・しょうた)1985年(昭60)9月2日生まれ、東京都葛飾区出身の34歳。5歳でラグビーを始める。熊谷工、筑波大ではSOとして活躍。大学卒業後の08年4月からセコム、キヤノンでアナリストを歴任。12年4月から15人制代表のアナリストを務め、15年W杯で3勝1敗の躍進に貢献。同年秋から現職。

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