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【コラム】金子達仁

流れの中から4得点 日本の宝物になる

[ 2018年10月17日 23:00 ]

流れの中から4得点を奪いウルグアイを撃破した日本代表
Photo By スポニチ

 長くサッカーを見ていると、ともすればしたり顔で苦言を呈したくなってしまうものだが、この日ばかりはそんな悪癖を投げ捨てよう。最大限の賛辞を贈ってもいい。快哉(かいさい)をあげたって構わない。とにかく、素晴らしい試合だった。たとえどれほど試合後のウルグアイが平静さを装ったとしても、賭けてもいい。彼らは足元の地面が消え失(う)せたような衝撃を受けているはずである。

 いささか極端な言い方になるが、ほんの数カ月前の日本代表は、柴崎がスイッチを入れないと攻撃を発動させることのできないチームだった。彼から発せられる縦パス、言ってみれば相手を刺すようなパスが、日本攻撃陣にとって最大の武器だった。

 思えば、ロシアでコロンビアと対戦する前の日本選手は、日本人は、わたしは、戦う前から気おされしていたところがあった。相手は南米の強豪。勝ち目は薄い。そんな覚悟を胸に決戦を迎えたのは、信じがたいことに、たった数カ月前のことなのである。

 それがどうだろう。ホームだったという利点をさっ引いても、日本の選手から脅(おび)えた気配は微塵(みじん)も感じられなかった。コロンビアをはるかに上回る伝統と実績を誇るウルグアイが相手だったにもかかわらず、である。

 さらに、ロシアでの日本攻撃陣をけん引した柴崎は、この日、ひたすらに黒子に徹していた。個人的にはもう少し積極的な彼を見たかったという思いもあるが、しかし、柴崎がスイッチを入れなくても、日本の攻撃は発動しまくりだった。

 攻撃にスイッチを入れる人(この際、スイッチャーとでも呼ぼう)、これまでは柴崎一人だったスイッチャーが、この日の日本代表には複数名いた。縦にボールを入れる選手。縦にボールを運ぶ選手。まだどこで、どんなタイミングで攻撃を発動させるかという共通理解のレベルはずいぶんと低く、流麗さはほんの一瞬で消えてしまうことが多かったが、それでも、相手からすると途方に暮れてしまうぐらい、日本の選手の縦への意識は際立っていた。

 こんな日本代表を見たのは、生まれて初めてである。

 縦へボールを運ぼうとすれば、そこにはリスクが伴う。自分がボールを失った最終責任者になるのを怖がるあまり、無意味な横パス、バックパスが増えてしまう傾向が長く日本サッカーにはあった。これは、国民性とも結びついているため、完全なる修正はほぼ不可能なのではないか、と思うこともあった。

 ところが、若くして海外に飛び出した日本選手は、そんな悪癖を完全に克服していた。隙あらば敵陣に向かって切り込もうとし、決定機では憎らしいほどに落ち着いていた。凄い。まったくもって、凄い。

 ホームでのテストマッチで勝っただけ。そんなに浮かれてどうする?いつものわたしならそう毒づくところだが、今日は違う。世界でもっとも守備の堅い国の一つであるウルグアイから奪った4ゴールは、それも流れの中から奪った4ゴールは、日本サッカーにとっての宝物になる。何しろ、世界王者フランスでさえ、ウルグアイからは2点を奪うのがやっとだったのだから。(金子達仁氏=スポーツライター)

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