【コラム】金子達仁

やっぱり凄い“神戸のイニエスタ”

[ 2018年8月26日 06:00 ]

<8月22日天皇杯、鳥栖・神戸>後半、ボールを見つめる、神戸・イニエスタ(左)と鳥栖・トーレス(撮影・中村 達也)
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 イニエスタの凄さに驚かされている……と書くと、「何をいまさら!」と憤慨される方がいるかもしれない。凄い実績。凄い年俸。凄くて当たり前ではないか、と。

 いや、そう言われてしまえばまさにその通り。というか、わたしが驚いているのは、まさにそれゆえなのである。

 わたしがイニエスタだったら、と想像してみる。長年プレーしてきたバルセロナに比べれば、ありとあらゆるところに物足りなさを感じてしまうだろう。環境しかり、周囲のレベルしかり。バルサではこうだったのに。バルサならできるのに。きっと、そんなことばかり考える。何しろ、俺様は世界的な名手、イニエスタ様なのだ。

 ところが、現実のイニエスタは違った。彼は、バルセロナではない周囲にバルサの水準を求めるのではなく、自分の方が周囲にアジャストしようとしている。

 その姿勢は、すでに数字となって端的に表れている。欧州サッカーに詳しい方ならご存じの通り、バルサやスペイン代表でのイニエスタは、決して得点力に優れた選手ではなかった。素晴らしいプレーメーカーではあったものの、自らがフィニッシュに顔を出す場面はさほど多くなかった。

 だが、ヴィッセルに加わってわずか3試合で、彼は早くも2ゴールをあげた。これは、ここ最近の4年間であげたのと同じ数字である。

 Jリーグのレベルが低いから?違う。もちろん、世界のトップから比べればまだまだ足りないところもあるが、過去、鳴り物入りで入団しながら、さっぱり結果を出せずに去っていった大物外国人は何人もいる。Jでのイニエスタが得点を奪えているのは、彼が、バルサとは違うイニエスタになろうとしているからである。

 ヴィッセルでのイニエスタは、積極的にフィニッシュに関わる。前線にいる長沢の高さが有効だとみれば、シンプルな(しかし正確な)クロスをゴール前に入れることもする。いずれも、これまでのイニエスタのイメージにはそぐわないプレーである。

 だが、らしくないプレーをするイニエスタの、何と楽しそうなことか。ひょっとすると、ヴィッセルでの彼は、バルサでやらなかった、やれなかった、やる必要がなかったプレーができる喜びを満喫しているのかもしれない。

 新天地を日本に求めたイニエスタの決断を、金目当ての都落ちと受け止めている人たちは少なからずいる。だが、スペイン人は信じないかもしれないが、ヴィッセルでのイニエスタは、さらに進化した姿を見せつつある。これまで日本でプレーする数多くの外国人選手を見てきたが、極めてレアなケースと言っていい。

 しかも、イニエスタの加わったヴィッセルは、まだガンバ、浦和、鹿島、川崎Fなどとの対戦を残している。破竹の快進撃を開始した名古屋との対決も興味深い。

 これほどまでに「見たい」と思わせてくれるイニエスタ。やっぱり「凄い」とは思いませんか?(金子達仁氏=スポーツライター)

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