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【コラム】金子達仁

いまは本気で願える。メキシコ対日本の準々決勝を

[ 2018年7月1日 11:09 ]

<日本代表練習>笑顔でランニングする吉田(中央)(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

 パラグアイ戦の勝利でほんの少し潮目が変わった気はしていたものの、まさか今回のW杯がこんなにも盛り上がるとは予想していなかった。

 アジア史上初めての南米勢に対する勝利、日本史上初めて2度のビハインドを追いついての引き分け、そしてW杯史上2番目にひどい試合と言われても仕方のないポーランド戦。良くも悪くも話題は満載。おかげで、アトランタ五輪における日本代表を描いたわたしの処女作は、21年ぶりの増刷が決まった。これも結構な「まさか」である。

 さて、間違いなくW杯史上最高だった1次リーグの熱が冷める間もなく、決勝トーナメントが始まった。日本代表の戦いぶりが話題をさらってしまったため、日本ではあまり騒がれていないが、この組み合わせはちょっと異常である。

 何しろ、日本が入った側のヤマには、ウルグアイ、フランス、アルゼンチン、ブラジルとW杯の優勝経験国が4カ国も入っているのである。合計優勝回数は実に10回!

 おまけに日本をのぞく残る3カ国は欧州王者のポルトガル、ドイツを倒した中南米王者メキシコ、今大会最強との評価が高まってきているベルギーなのだからたまらない。これはもう間違いなく「死のヤマ」である。

 ロンドンのブックメーカーがつけた優勝オッズを見てみると、目下の1番人気はブラジル、以下スペイン、ベルギー、イングランドが続き、日本がダン然の最下位となっている。

 だが、果たして1週間前に、ドイツが1次リーグの最下位になると予想した人が全世界にどれだけいたことだろう。わたしの知る限り、スポーツのありとあらゆることにオッズをつけたがるブックメーカーも、「ドイツ最下位」という項目は作っていなかった。もしあったら、そして1万円でも買っていたら、数年、あるいは十数年は左うちわの人生が待っていたかもしれない。

 サッカーは何が起こるかわからない。今大会は特にわからない。史上最高にわからない。

 日本の未来も、だからわからない。

 ただ、ベルギー戦の勝利を祈る者としては、決勝トーナメント8試合中の7番目に戦う国の人間としては、ちょっと期待してしまうことがある。

 荒れろ。

 なぜ今大会は空前の番狂わせが相次いだのか。メキシコが風穴をあけ、その穴を日本が爆破したからだとわたしは思う。番狂わせの波動が、弱者たちに伝播(でんぱ)していったのだ。

 同じことが決勝トーナメントでも起きれば。

 スペイン対ロシア。クロアチア対デンマーク。ブラジル対メキシコ。日本がベルギーと戦う前に行われる、オッズに大きな差のついた試合で、番狂わせが起きてくれれば――。

 普通だったらまずありえないし、夢想してしまった自分を笑うだろう。だが、わずか2週間前の開幕以来、サッカー界の景色と常識はずいぶんと変わった。

 だから、いまは本気で願っている。願えるようになった。

 メキシコ対日本の準々決勝を。(金子達仁氏=スポーツライター)

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