【コラム】金子達仁

誇り、名誉、未来のために―封印した牙で、赤い悪魔を食いちぎれ

[ 2018年7月1日 11:03 ]

<日本・ポーランド>イレブンとハイタッチして喜ぶ西野監督(撮影 ・西海健太郎)
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 韓国に感謝、である。

 彼らのおかげで、彼らが壮絶な戦いの末に前回王者ドイツを倒してくれたおかげで、わたしはこの……はっきり言ってしまえば醜悪な結果と内容に腹を立てることができる。

 36年前のスペイン・ヒホン。1次リーグ最終戦。勝たなければ次のラウンドに進めない西ドイツと、3点差以内の負けであれば問題ないオーストリアは、前半10分に西ドイツのルベッシュがゴールを決めてからの80分間、ただただ時間の消費に励んだ。1次リーグ最終戦のキックオフ時間を同一にするきっかけとなった、いまなお「W杯史上最悪」とも言われる試合である。

 それに近いことを、ポーランドと日本はやった。

 もし前日に韓国がああいう試合をやっていなかったら、もう少し決勝トーナメント進出を喜べたかもしれない。前評判を考えれば、大変な快挙であることは間違いないし、今大会の1次リーグを勝ち抜いた唯一のアジア勢ということにもなったからである。

 だが、韓国のおかげで、せいで、わたしはいつもよりさらに強欲に、傲慢(ごうまん)になってしまった。定まりつつあった日本=アジアの盟主という印象が奪われかけている。取り返せ。ポーランド戦で、決勝トーナメントで取り返せ。そう祈りながら試合を見守った。

 だから心底失望し、同時に、ゾクゾクするような悦(よろこ)びを覚えている。

 次に待つベルギーとの決勝トーナメント1回戦は、史上初めて日本の選手が勝利と内容に飢えて迎える試合になるはずだからだ。

 16年前、チュニジアを倒した直後の日本はどうだったか。8年前、デンマークに快勝したあとの日本は?燃え尽きていなかったか?ある程度の満足感に包まれてはいなかったか?

 今回は違う。選手たちは、自分たちがどれほど醜悪な試合をやったかを知っている。勝ち上がるためにやむをえなかったとはいえ、日本のイメージを大きく貶(おとし)めてしまったことも知っている。ああ良かった、これで最低限のノルマは達成できた……などと感じている選手は、おそらく皆無である。

 ルカク、E・アザール、デブルイネ。ベルギーにはキラ星の如(ごと)きスターが揃(そろ)っている。だが、韓国が倒したのはドイツだった。才能は揃っているものの、W杯で一度も優勝したことのない中堅国ではなく、世界中の誰もが畏怖し、ひれ伏してきたチームだった。そんな超名門を、それまで0勝2敗だった国が破ったのだ。

 日本にだってやれないはずがない。いや、やるしかない。やらなければ、「史上2番目にひどい試合」が今大会における日本の最新にして最後の印象として残ることになる。

 取り戻さなくては。

 先発メンバー6人を入れ替えた西野監督の決断は、大失敗だった。これまでの2試合で培ってきたコンビネーションや自信の6割を捨てたのだから無理もない。

 だが、大失敗の代償として、乾は、長谷部は、本田は、香川は、大迫は、そして昌子はさして消耗することなくベルギーとの決戦に臨むことができる。

 激しく飢えろ、日本。誇りのために。名誉のために。未来のために。ボルゴグラードでは封印した

その牙で、赤い悪魔を食いちぎれ。(金子達仁氏=スポーツライター)

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