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【コラム】金子達仁

記憶に残る美しき得点とナイジェリアの雄々しさ

[ 2018年6月28日 13:30 ]

ナイジェリア戦、先制ゴールを決めたアルゼンチン代表FWメッシ
Photo By AP

 数日前、今大会は21世紀最高のW杯である、と書いた。舌の根も乾かぬうちに恐縮だが、訂正させていただきたい。

 今大会は、W杯史上最高の大会になりそうである。

 断定しきれないのは、どれほど素晴らしい試合が続こうとも、最後の試合、つまり決勝戦の内容が退屈だと、大会自体の印象が大きく損なわれてしまうからである。そこそこに面白い試合もあった90年のイタリア大会が、なぜか重苦しい印象で受け止められることが多いのは、決勝の西ドイツ対アルゼンチンがスペクタクルとはかけ離れた内容だったからだとわたしは思う。

 だから、まだ断定はできない。できないのだけれど、W杯史上最も熾烈(しれつ)で劇的な1次リーグだった、ということは言える。まだ4試合残っているが、言い切ってしまうことにする。ドイツ人が、ブラジル人が、勝って涙を流す1次リーグが史上最高でなくて、何が史上最高だというのか。

 アルゼンチン対ナイジェリア。またも、またしても、凄い試合だった。

 アルゼンチン側から見れば、人生を懸けた試合にメッシが勝った、ということになる。流れるようなトラップからの先制弾は、アルゼンチン人のみならず、長く世界のファンに語り継がれていくであろう美しい一撃だった。

 だが、ナイジェリア人の側から見れば呪詛(じゅそ)の一つや二つ、いや、千も万もつぶやきたくなるほどの試合だった。

 ジャック・ヒギンズの小説をもじるならば「鷲は墜(お)とされた」。勇敢に、そして正々堂々と戦ったスーパーイーグルスの羽を折ったのは、メッシの神業であり、アルゼンチンの闘志であり、そして何より、主審の恣意(しい)的な判断だった。

 VARがはっきりと捉えていたまごうことなきハンドを、トルコ人の主審はなぜか黙殺した。あれがハンドでないというのであれば、今大会で与えられたPKの8割はなかったことになってしまう。

 さらにこの主審は、マスケラーノの流血も見てみぬフリを決め込んだ。本来であればピッチの外で止血をしなければいけない選手を、何事もなかったかのようにプレーさせた。ルールが適正に運用されていれば、アルゼンチンは違った選手交代を余儀なくされたか、最低でも数分間は10人で戦わなければならなかった。

 もちろん、アルゼンチンが勝者にふさわしいチームだったのは間違いない。だが、鷲の雄々しさ、気高さは世界の人々の胸を打ったはず。ナイジェリア@ロシア。B組のモロッコ同様、記憶に残るチームだった。

 さて、薄氷を踏む勝利を収めたアルゼンチンだったが、この試合、サンパオリ監督はGKを入れ替えていた。同国サッカー史上でも指折りに入るほど重要な試合に、W杯出場経験のないGKを使うことは非常に勇気が要っただろうが、決断が裏目に出ることはなかった。

 W杯はいろんな事象が絡み合い、影響しあっていく大会でもある。

 サンパオリ監督の決断は、同じようにGK問題に頭を悩ませるであろう西野監督に、どんな影響を及ぼすのか。ポーランド戦へ向けての注目点が、また増えた。(金子達仁氏=スポーツライター)

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