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【コラム】金子達仁

日本代表と日本が結びつく初めての好機がやってきた

[ 2018年6月27日 15:20 ]

ポーランド戦に向けて調整する日本代表メンバー
Photo By ゲッティ イメージズ

 Jリーグが発足した25年前、日本人にとってW杯は未知の世界であり、ほとんどの人は未知のまま終わるものだと思っていた。

 だが、ドイツ人は、イタリア人は言ったものだ。

 大丈夫、日本サッカーは強くなる。これだけ経済的に成功している国なんだから、間違いない――。

 あのころはピンとこなかった。なぜ経済的な成功とサッカーの成長を同一視するのか。なぜW杯どころか五輪からも長く遠ざかっている国のサッカーの未来を、そんなにも楽観的に見られるのか。

 だが、いまならばわかる。なぜセネガル戦を見た元イタリア代表のスーパースター、デルピエロが自らのブログに「苦しい打撃を受けても再び起き上がる強さを一番持っているのはおそらく日本人なのでは?侍は決して諦めない」と書いた理由もわかる。

 彼らはきっと、現在進行形の日本だけを見ていたのではない。近代史に登場してからの日本を、彼らからすれば驚異的な成長を遂げたその歴史をも投影していたのだ。明治維新からの急速な西欧化。日露戦争の勝利。焦土からの復興。デルピエロの意識の中には、東日本大震災も関係しているかもしれない。

 だから、親日家のイタリア人に「侍は決して諦めない」とつぶやかせたのは、日本代表選手だけの力ではない。サッカーとはまるで無関係な人たち、国内外で外国人と触れ合った市井の人たち、歴史上の偉人、無名の人たち……すべての日本人が積み重ねてきたイメージと実績が、史上初めて、代表チームのサッカーと重なったのだ。

 18年6月24日の日本は勤勉だった。まだまだ改善の余地が多々あるとはいえ、セネガルよりは緻密だった。苦境に立たされても逆上することなく、悪質な反則や見苦しい行為は皆無だった。何があっても諦めなかった。そして何より、姑息(こそく)に勝利をかすめとろうとするのではなく、真正面から相手に立ち向かっていた。

 このスタイルを貫いていけば、そのうえでポーランドを倒すことができれば……何かが、大きな何かが変わりそうな気がする。

 日本をアジアの弱小国としか見なしていない人は、まだまだ多い。それは、歴代の日本代表が日本という国を連想させるサッカーをしてこなかったから、でもある。

 だが、このサッカーを続けていけば、結果を積み重ねていけば、日本代表のパスワークにセイコーやレクサスをダブらせる人が出てくる。美しい独自の伝統文化を思い浮かべる人が出てくる。大災害に見舞われても秩序を失わなかった国民性に思いを馳(は)せる人が出てくる。

 いつか、決して遠くはないいつか、日本代表が畏怖と尊敬の対象となる日がくるかもしれない。

 ポーランド戦が、いよいよ重要になってくる。

 たとえこの試合で東欧の古豪に最後の一太刀を浴びることになろうとも、今大会で日本がなし遂げたことが消えるわけではない。だが、勝てば、日本代表と日本が結びつく。

 これは、史上初めてやってきた好機である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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