【コラム】金子達仁

スペインGKデヘアは負の歴史に勝てるのか

[ 2018年6月17日 12:00 ]

<スペイン3―3ポルトガル>C・ロナウドのシュートを後逸し見送るスペイン代表GKデヘア
Photo By AP

 ウルグアイ対エジプトはいい試合だった。古豪のキャプテンが見せた鉄壁の守りと強烈なリーダーシップ。はや大会ベストセーブは決まりか、と言いたくなるほどの好守を見せたエジプトGKシェナウィ。決勝点が決まった瞬間の興奮は、およそ1次リーグ初戦のそれではなかった。

 イラン対モロッコも素晴らしい熱戦だった。両チームの選手が見せた球際での凄(すさ)まじい執念。20年ぶりの勝利に沸くイランの歓喜に胸は熱くなり、しかし、土壇場で奈落の底に突き落とされたモロッコの落胆に胸が締めつけられた。

 だから、世界のサッカーファンは幸運だった。

 もし、試合の順番が違っていたら。つまり、この日最初に行われていたのが、ソチでのスペイン対ポルトガルだったとしたら――。

 印象は、まるで違ったものになっていたはずだ。

 クリスティアーノ・ロナウドの強烈な速さと決定力を見せつけられたあとでは、どんな駿足(しゅんそく)アタッカー、どんな有能なストライカーであっても、見劣りがしてしまう。イニエスタを中心としたスペインのパス回しを目撃したあとでは、どれほど技巧派を揃(そろ)えたチームでも、粗雑で幼稚に感じられてしまう。

 本大会での躍進を目論(もくろ)む国と、優勝を狙う国とのレベルの違いを、両国は見せつけた。それも、最高の試合内容で。わたしの記憶にある限り、大会初戦でこれほどのものが見られたのは、82年スペイン大会のブラジル対ソ連以来である。

 ちなみに、ソクラテスがミドル、エデルがドライブをたたき込んでブラジルが逆転するこの試合、ソ連の先制点はブラジルGKパウジール・ペレスの信じがたい後逸によるものだった。

 ペレスが悪いGKだったわけではない。W杯前年にシュツットガルトで行われた西ドイツとのテストマッチでは、PKを連続ストップするという離れ業を演じ、欧州のメディアからも高い評価を得ていた。

 だが、W杯は短期決戦である。初戦で大きなミスを犯したGKがリズムを取り戻すのがどれほど難しいかを彼は証明してしまい、いまも、世界中から酷評されてしまっている。

 だから、心配なのはスペインのGKデヘアである。

 C・ロナウドの2点目は、確かに強烈ではあったものの、GKであれば絶対に止めなければいけないシュートだった。むろん、そのことを誰よりも理解しているのはデヘア本人だろう。

 さあ、どうなるか。

 ペレスは立ち直れなかった。さすがに大きなミスはもうなかったが、2次リーグのイタリア戦では、決定機をことごとく得点につなげられてしまった。

 どんなチームであっても、W杯で優勝するためにはGKが神懸からなければならない試合がある。そして、神懸かるためには守護神の心中に一片の不安すらあってはならないとわたしは思う。

 スペインは強かった。2度目の優勝に十分値するチームであることは証明した。だが、本当に勝つためには、デヘアが歴史に挑戦しなければならない。ミスを犯したGKがのみ込まれてきた、忌まわしい歴史に。(金子達仁氏=スポーツライター)

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