【コラム】金子達仁

いい選手と監督でも… これがサッカーの恐ろしさ

[ 2018年6月16日 12:00 ]

<ロシア5―0サウジアラビア>後半アディショナルタイム、2得点目を決めたロシア代表チェリシェフ
Photo By AP

 まずはロシアの人たちに祝辞を。W杯の開幕戦で5―0。ちょっとあることではない。歴史的大勝利といってもいい。

 これで、残り2戦で勝ち点2をあげられれば、決勝トーナメントに駒を進める可能性は高くなった。仮に他の2カ国と勝ち点で並んだとしても、得失点差で劣ることは考えにくいからだ。

 82年W杯、初戦でハンガリーに10ゴールを許したエルサルバドルは、しかし、ベルギーとアルゼンチンからは合計で3点しか奪われなかった。大惨敗は、弱者を亀に変える。そして、それをこじあけるのは、ウルグアイ、エジプトにとっても簡単なことではない。

 ともあれ、これで会場に足を運ぶロシアの人たちの気持ちも、一気に軽くなったことだろう。明るくなったスタジアムの雰囲気は、より魅力的なサッカーを引き出す可能性がある。今後の大会が盛り上がっていくことを期待したい。

 それにしても――。

 わたしがサウジアラビアの人間であれば、すべての仕事を放り出し、姿をくらましているところだ。なんだったら、宗教上のタブーを破って禁じられた液体に手を出すかもしれない。それぐらい、打ちのめされている。

 なにせ、0―5である。

 確かにブックメーカーのつけた優勝オッズでは、パナマと並んで参加国中最下位だった。だが、個人的にはサプライズを起こす可能性は十分にあると見ていた。

 チームの母体を考えれば。

 レッズのファンはよく覚えているだろう。ACL決勝の相手。とことん押し込まれ、とことん苦しめられた相手。それが、今回サウジ代表の中核を担ったアルヒラルだった。

 元アルゼンチン代表の名ストライカー、ラモン・ディアスに率いられたこのチームは、わたしが見てきた中でもっとも魅力的なサッカーを展開する中東のチームだった。同じ選手が代表に行くとなぜあんなにも退屈なサッカーをやってしまうのかが不思議になるほどに。

 おそらく、サウジ国内にも同様の疑念、不満はあったはず。予選終了後にファンマルバイク監督は更迭され、紆余(うよ)曲折を経て、今大会の監督はアルゼンチンからスペインの国籍を取得した元バルサのストライカー、ピッツィが務めることになった。

 彼のとった手法はオーソドックスだった。アルヒラルの面々を軸に、海外組を組み合わせる。この日も、先発メンバーのうち6人はアルヒラルの選手だった。

 だが、陸上トラックの消えたルジニキ・スタジアムでの彼らは、かすかにアルヒラルの残り香は感じさせたものの、ディアスのチームとはかけ離れたものだった。

 チリを南米選手権優勝に導いたピッツィの手腕は、各方面で高く評価されている。アルヒラルのレベルは、十分に欧州や南米とやりあえるレベルにあった。

 それでも、0―5。彼らは大会初日にして「死亡宣告」を受けてしまった。

 いい選手がいて、いい監督がいても、いいチームになるとは限らない。改めてサッカーの難しさ、恐ろしさを思い知らされた開幕戦でもあった。(金子達仁氏=スポーツライター)

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