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【コラム】金子達仁

“顔”不在の日本代表 欧州遠征で誰が台頭?

[ 2018年3月15日 20:10 ]

日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督
Photo By スポニチ

 この気分は、ちょっと20年前に似ている。

 あれは、日本にとって初めてのW杯だった。その存在を知らない日本人のサッカー選手、関係者はいなかったが、そこに自分たちが入ったらどうなるかを知っている日本人は皆無だった。

 日本の武器はなんなのか。誰も知らなかった。弱点がなんなのかも知らなかった。チームの軸は誰で、攻撃陣を引っ張るのは誰なのか。確固たる骨組みやリーダーが定まらないまま、臨んでしまったW杯だった。

 やむを得ない面もある。大会直前にカズがメンバーから外れたことで、フランスに挑むチームには、海外のクラブに所属した経験のある選手が一人もいなかった。言ってみれば、全員が井の中の蛙(かわず)だったのだ。

 以来、日本のサッカーは選手個々が海外での経験値を高めることを最優先課題としてきた。まず中田英寿が道を開き、若手たちも続々と海を渡った。日韓よりもドイツ、ドイツよりも南アフリカ、南アフリカよりもブラジル。量だけでなく、質の面でも経験値を向上させてきたのが、近年までの日本サッカーだった。

 今回は、違う。これはハリルホジッチ監督に同情するしかないのだが、右肩あがりを続けてきた日本選手の海外における経験値は、ここのところ、明らかに伸び悩み、もしくは減少している。CSKAモスクワからACミランへとステップアップした本田圭佑のような例が、見当たらないのである。

 チームのリーダー役を海外で活躍する選手に任せてきた日本サッカーにとって、このことの持つ意味は他国以上に大きい。メンバーややり方を固定しないハリル監督のスタイルも相まって、日本代表は20年ぶりに、国民がキャプテンやリーダーの顔をイメージしにくいチームとして本大会に挑むことになる、というのがわたしの率直な印象である。

 ある意味、これは興味深い挑戦でもある。

 監督が意図したこととは思いにくい。ケガやチーム事情による移籍などで、リーダーとして期待していた選手が困難な状況に追い込まれたから、というのが本当のところだろう。ただ、来週からの欧州遠征に香川の合流が絶望となり、本田の招集も五分五分とされているいまは、「次の顔」となる選手が台頭する絶好の機会である。

 ボスの座は、いま、空席になっている。

 自分たちが何をするかに主眼を置いたここ数年の代表チームと違い、ハリル監督のチームは相手に合わせてスタイルを自在に変えるチームである。大会前のテストマッチの持つ意味は、ザッケローニのチームにとってのそれとは少し違う。勝敗も内容も、良し悪(あ)しは別にして気にすることはない、とも思う。

 ただ、苦しいときにチームを牽引(けんいん)する存在なくして、本大会での躍進はないことは、20年前の結果が証明してしまっている。ロシアでのリーダー候補は誰か。来週からの欧州遠征、わたしが注目するのはその一点である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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