【有馬記念】最後にもうひと花を!レイデオロ 藤沢和師に贈る「恩返し」

[ 2019年12月19日 09:00 ]

我らLast Run(4)~ありがとう、そしてさようなら~

藤沢和師初のダービー馬となったレイデオロ
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 筑波おろしにあおられて名残惜しげに枝を揺らす美浦トレセンの冬紅葉。その木漏れ日の下で藤沢和師が腕組みしながらレイデオロの動きを見つめている。「今年も1年間現役を続けてきて良かったと言われる結果を出したいよね。これで最後だから」。赤褐色に輝くダービー馬が視界から消えると、昔から繰り返してきた言葉をつぶやいた。「馬の恩返しってあるんだよ」。愛情をかければ、鶴の民話のようにいつか恩返ししてくれる。70歳の定年まで残り2年と迫る名伯楽晩年の逸材には、馬の心に寄り添う藤沢イズムが注入されてきた。

 「走るのが大好きな気性はおばあちゃん(レディブロンド)だな」。同師が笑顔の花を咲かせたのも冬紅葉に包まれた中山競馬場。デビュー3連勝を飾ったホープフルSのゴール後も走り足りないとばかりにペースを緩めなかった。「牧場に戻れば子づくりという大仕事が待っている。だから余力のあるうちに帰してやりたい」。藤沢和厩舎の牝馬は早めに繁殖に上がる。5歳の初夏デビューから4連勝したレディブロンドも余力を残しながらその年の秋に引退。その孫がレイデオロだった。馬の恩返しである。

 「私だってダービーは勝ちたいが、競走生活のゴールではない。若い馬に無理をさせれば駄目になってしまう」。長年のジレンマだったダービーを調教師生活の晩年に19頭目の挑戦で勝たせてくれた。これも馬の恩返し。

 煎(い)らない豆は芽を出すという。「古馬になっても、さすがダービー馬と言われるレースをしてほしかった」と師は振り返るが、若馬時代に煎るような調教をしなかったから古馬になって成長の芽を伸ばした。2度目のG1優勝を飾った4歳秋の天皇賞。パドックのディスプレーに映る自らの姿に耳を絞って向かっていった。「自分の姿だと分からないからコイツに負けるものかと威嚇するんだ」。レースでも相手を屈服させようとするボス馬の本能で古馬の頂点に君臨した。煎らない馬の恩返し。

 「長い間、無事にきただけで十分、恩返ししてくれたと思う。リズムが悪かった今年だって調子はいいんだ」。冬紅葉が頭上で再び揺れた。今年急死したキングカメハメハの後継種牡馬になるため5歳でターフを去るその雄姿を惜しむように。

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2019年12月19日のニュース