実はカナダ出身

[ 2019年2月26日 08:30 ]

引退セレモニーでリングに上がったブッチャー
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 【我満晴朗 こう見えても新人類】懐かしい名前を聞いた。アブドーラ・ザ・ブッチャー。かつて一世を風靡(ふうび)した悪役レスラー。特にプロレス愛好家ではない筆者だが、たった1度の取材でコロリとファンになってしまった人だ。

 あれは1995年8月、つまり前世紀末。翌年のアトランタ五輪テスト大会を兼ねていた競泳のパンパシフィック選手権をカバーするため、ディープサウスの中心地に滞在していた。大会では千葉すず(これも懐かしい!)が女子200メートル自由形で金メダルを獲得するなど大盛り上がり。原稿を打ちまくって疲弊した体にムチ打ち、大会終了後に向かったのがアトランタ近郊にリブステーキレストランを開業したばかりのブッチャー家だった。

 お店の応接間に通されて数分後、ご本人がのっそり登場(ピンク・フロイドの名曲は流れなかったが)。いきなり、そのこわもてにびびってしまう。名刺を渡し、握手を交わしたところでニコリともしない。さてどんなインタビューになるのやらと冷や汗をかき始めたその時、助け舟を出してくれたのが日本語に堪能なアジア系のリー夫人。

 地元で行われるアトランタ五輪について、何を期待しますか?

 ぜひとも観戦したい競技はありますか?

 日本選手で知っている選手はいますか?

 などなど、たわいない問答を丁寧に訳していただいた。それも美しい日本語で。語尾は必ず「〜でございます」と終わる。仏頂面で話すブッチャー本人とのギャップが激しすぎてちょっと困った。

 取材終了。撮影を終えて帰り支度を進めていると「このレストランの奥にオレが作ったスポーツクラブがあるんだ。せっかくだから見ていってくれ」と声を掛けられた。日本でもおなじみのフィットネスジム程度と勝手に想像して向かった先にはアメリカンフットボール練習場に加え野球のフィールド、複数の体育館がで〜んとそびえていたからびっくり仰天。「コンプレックス(複合施設)」の名称そのものの豪華な施設群だったから。

 おりしも10歳前後の少年たち数十人がアメフトのトレーニングに励んでいる。どの子どもたちも一様に目を輝かせ、なんとも楽しそうだ。ふと振り返ると希代のヒールはにこやかにそんな情景を見守っている。表情は仏様のように見えた。本物に会ったことはないけども。

 場を辞する際には自慢のチキンウイングをいやというほど持たされ、夜にはアトランタの高層ホテルでおいしく頂いた。窓越しに見下ろすダウンタウン夜景の美しさは今も忘れない。

 24年後の今年2月、78歳になったブッチャーは「ジャイアント馬場没20年追善興行」に参加するため東京の両国国技館を訪れた。彼自身の引退式も兼ねていたというニュースに触れ、あの時食したスパイシーチキンの味がじわっとよみがえってくる。(専門委員)

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