仏で絶賛の日本映画「シンプルギフト」東京でロードショー「何気ない日常こそが“贈り物”」

[ 2018年11月1日 05:28 ]

映画「シンプルギフト」ダンスをするウガンダの子供たち
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 東日本大震災で、ウガンダでエイズのためそれぞれ親を失くした子供たちがブロードウェイに挑戦した軌跡を追うドキュメンタリー映画「シンプルギフト 〜はじまりの歌声〜」が11月3日から東京・有楽町スバル座で公開される。

 2017年に完成後、公式の初上映は日本ではなくフランスだった。6月にパリで開催された第5回欧州アフリカ映画祭に特別選定作品となり、映画祭のオープニングで上映。同映画祭関係者からは「上映中ずっと泣いていた。悲しい部分も多いが、希望が見えてくるところに感動した。子どもたちが不幸から絆を築き、その絆で喜びを見出す過程を見事に描いている」「(日本とアフリカの子どもたちが)互いの違いを尊重し合いながら“悲しみ”を共有していく。これは異なる文化を持った人たちが一つになっていくこと。この映画こそ本当に多くの人に見てもらいたい」などと高く評価された。

 映画祭での上映をきっかけに、7月にはフランス・シェルブールで開催の映画祭に急きょ招待され上映。さらにモロッコ、セネガル、マリでの映画祭からオファーが舞い込むなど、日本での上映を前に国境、大陸を超えて感動の輪が広がっている。篠田監督は「パリでの映画祭では果たしてフランス人やアフリカの人に届くのかという不安はあったが、ふたを開けてみると、強烈な意見、賛辞が続き、ホンマかいなという意外性と、映画が間違いでなかったとの思いを強くした。大切な人を亡くして気がつく、何気ない日常こそが(天からの)“贈り物”なんだということにハッとしたのでしょう」と語った。

 泣きっぱなし、涙がじわっとあふれた、後で思い出したら泣けてきた…。形はそれぞれでも親を亡くすという子どもにとって最大の悲しみを抱えつつも、新しい一歩を踏み出すきっかけをブロードウェイの舞台に見出した姿は見た者の心に何かを残す。ナレーションを務めた女優・紺野美沙子の優しい語り口に誘われて涙腺が緩むことも確かだ。

 が、90分の作品に感動の“演出”は見当たらない。作りとしてはとても愚直な作品だ。だからこそ人の気持ちに“刺さる”。まっすぐ。これが一番強いし人の心に強烈なインパクトを残す。ミュージカル「レ・ミゼラブル」などで、舞台のアカデミー賞とよばれるトニー賞を2度受賞した舞台演出家ジョン・ケアード氏が子どもたちをまとめ上げているが、ここではあくまでアシスト。4年の歳月、300時間超の撮影映像から1時間半に凝縮された一滴のしずくのような作品。子どもたちの目の動き、心の動き、行動の変化…どれも視線を外すことができない。

 いくら時代が変わろうとも忘れてはならないものがある。日本人でいえば、昭和なら戦争の記憶、そして平成なら東日本大震災をはじめとする多発した地震など天災の記憶だろう。いずれも「人の命」がかかわる悲しい記憶は風化させてはならない。まもなく新年号とともに新しい時代が幕開けする。時代が変わっても震災の記憶を伝える「シンプルギフト」は折に触れ、見るべき映画の1本である。

 「個人としては47都道府県全てで1館でいいから、この作品に接触していただける場をつくりたい。映画に触れた人がこのプロジェクトに関心をもつチャンスが生まれ、SNSの時代らしく緩やかにつながりあい、その輪が世界に広がる可能性も生まれるかもしれない。東京のロードショーがそのスタートとなれば」とロードショーへの思いを口にする篠田監督。スバル座での上映は16日まで(11時、13時10分の2回上映、11日は休館日)。12月には大阪、来年3月には新潟で上映が予定されている。

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