ヤクルト・嶋基宏 人を残すため指導者でも「底力」 恩師の野村克也さんのような名将へ

[ 2022年12月30日 05:45 ]

ヤクルト移籍3年目の今季はコーチ補佐を兼任した嶋(撮影・西尾 大助)

 惜しまれつつ引退するベテランもいれば、思うように活躍できずに現役を終える若手もいる。2回に分けて紹介する、年末恒例の「惜別球人」。プロ生活の経験や思い出を胸に、新たな道へ進む野球人に、幸あれ。

 【ヤクルト・嶋基宏】松山の澄んだ空に、誰よりも声が響いていた。ヤクルトの秋季キャンプ。嶋バッテリーコーチ兼作戦補佐が指導者としてスタートを切った。「立場が変われば、選手も構えて聞くようになる。一方通行にだけならないようにしっかりコミュニケーションを取ろうと」と選手の声を聞く姿があった。

 “人のために”の思いを強くしたのは、楽天時代の11年に経験した東日本大震災。プロ入り直後は「活躍して有名になりたい」とがむしゃらだったが、東北を本拠とするチームの選手会長として「自分に何ができるのか」を懸命に考えた。「見せましょう、野球の底力を」のスピーチは勇気と感動を与えた。

 代名詞となったその言葉は重圧にもなった。ゆえに13年に球団初の日本一を達成した瞬間、「全て肩から荷が下りた。被災して苦しんでいる方々が喜んでいる姿を見たときに本当によかったなと」。“誰かのために”が信念となった。

 ヤクルト移籍3年目の今季はコーチ補佐を兼任。若手の成長を喜び、励みに感じるようになった。「“野球人生の中で嶋さんに出会えてよかった”と思ってくれる人をたくさん出したい」。人を残すは一流。恩師の野村克也さんのような名将への第一歩を踏み出した。(青森 正宣)

 ◇嶋 基宏(しま・もとひろ)1984年(昭59)12月13日生まれ、岐阜県出身の38歳。中京大中京から国学院大を経て、06年大学生・社会人ドラフト3巡目で楽天入り。13~17年にはパ・リーグ球団から初の労組選手会の会長を務めた。19年オフにヤクルトに移籍し、今季はコーチ補佐を兼任。1メートル79、84キロ。右投げ右打ち。

続きを表示

この記事のフォト

2022年12月30日のニュース