【内田雅也の追球】保たれた「阪神」の面目 「二人三脚」として権限を分けた裏技

[ 2022年12月22日 08:00 ]

<オーナー交代会見>杉山新オーナーに見送られて退席する藤原前オーナー(左)(撮影・岸 良祐)
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 正式発表となった阪神のオーナー交代で、注目すべきは球団の代表権である。オーナーとなった阪急側の杉山健博になく、球団会長に就いた阪神側の秦雅夫が持つ。会見では杉山もオーナーを退く藤原崇起も「球団経営権は依然、阪神電鉄にある」と繰り返した。

 従来、球団の代表取締役会長がオーナーなわけで「二人三脚」として権限を分けた裏技である。阪急系のオーナー就任で「経営権の移行」「新規参入」と指摘される矛先をかわした格好だ。

 阪神、阪急の経営統合で起きた、例の「30億円問題」に起因する。2006年11月14日のオーナー会議で提出された文書は2通あった。

 1通は「誓約書」で、阪急ホールディングス社長・角和夫、阪神電鉄社長・坂井信也、阪神球団オーナー・宮崎恒彰(肩書はいずれも当時)の署名・押印がある。阪神球団の永続保有と野球振興への貢献を誓っている。

 通称・村上ファンドの買収攻勢を受け、阪神電鉄が救いを求めた阪急は1988年、球団(ブレーブス)を「スポーツ文化事業の使命は終わった」とオリックスに身売りしていた。

 もう1通は阪急・阪神間で交わした「内部合意書」である。「球団(タイガース)経営は今後も阪神電鉄が担う」としている。球団にとっては親会社の親会社、阪急阪神ホールディングス(HD)ができたわけで、他球団から「新規参入」にあたると指摘を受けた。野球協約で規定される預かり保証金25億円、野球振興協力金4億円、手数料1億円の支払いを要求された。宮崎は他11球団を行脚して理解を求め、角と面談した当時のコミッショナー・根来泰周が「支配権は移るが経営権は従来通り」と説明。手数料を除く29億円の支払いを免除された。

 今回も藤原が他球団を行脚し、説明して回った。その切り札が代表権は阪神側の球団会長が務める異例人事だった。現状、他球団から声はあがっていないそうだ。

 阪急側は30億円とはいえ25億円は10年で返却されるわけで支払う構えもあると耳にする。阪神側は支払っては「経営者変更」を認めたことになる。阪急の支配が強まっているのは明らかで、詭弁(きべん)だろうが何だろうが、阪神は面目を保った。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年12月22日のニュース