【内田雅也の追球】明暗分かれた投手の打席 不要論唱えた原監督に軍配上がった

[ 2022年8月5日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-7巨人 ( 2022年8月4日    東京D )

<巨・神>2回、山崎伊(左)に適時打を許した先発のウィルカーソン(撮影・河野 光希)
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 阪神は0―7完敗だが、それでもわずかに試合の妙はあった。投手の打席で明暗が分かれた。

 先発アーロン・ウィルカーソンが2回裏、1死も奪えず、1四球をはさみ5打数連続安打でKO降板となった。打たれ始めると止まらない、悪い癖が出たわけだ。5安打はすべて2ストライクと追い込む以前に打たれている。甘い球をそろえ過ぎたのだろう。

 なかでも投手・山崎伊織に浴びた右前適時打が痛い。3点を失ってなお無死一、三塁で打席に迎え、初球の真ん中直球をゴロで一、二塁間を破られた。球速表示140キロの棒球だった。

 ベンチが1死を計算したはずが4点目を失い、早々と石井大智を救援に送る羽目となった。1回0/3での降板は今季チーム最短。準備も不十分だろうし2回に登板など未経験。石井は押し出し四球で5点目を献上した。

 大量失点となったが、それでもまだ序盤。早い回に1、2点でも返していれば、まだ展開や流れも違っていたはずだ。

 5失点直後の3回表、連打で無死一、二塁とし打順はプロ初打席の石井に回ってきた。当然、送りバントだが三塁封殺で失敗に終わった。三塁手に捕らせたい状況で内角球がきたが、前進する一塁手の前に転がった。初打席には酷だったか。

 ただし代打はない。あまりに早い先発降板でしわ寄せがきていた。ロングマン(長い回を投げる救援投手)が必要で石井は結局3回を投げた。

 バント失敗の後、中野拓夢の投ゴロ併殺で好機は去り、もう流れは引き寄せられなかった。あのバントの場面が一つの分水嶺(れい)だった。

 近年、セ・リーグでも指名打者(DH)制導入が検討されている。原辰徳は推進派で巨人は一昨年12月の理事会で提案した。ただ、この夜は不要論を唱える投手の打席で巨人は勝ったわけだ。

 パ・リーグがDH制を採用した1975年、セ・リーグは「野球の伝統をあまりにも根本的にくつがえしすぎる」など公式見解9項目を出した。

 なかに「投手も攻撃に参加するという考え方をなくしてしまう」「バントが少なくなり野球の醍醐味(だいごみ)がなくなる」とあった。まさにこの夜の試合ではないか。9人野球、選手たちを「ナイン」と呼ぶ妙が見えた。 =敬称略=
 (編集委員)

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