【内田雅也の追球】「他力」と「ミスの法則」 9回裏の島田、梅野どちらもアウトにできた

[ 2022年7月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―6DeNA ( 2022年6月30日    横浜 )

<D・神>5回、近本の打球を適時失策する牧(撮影・島崎忠彦)
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 逆転サヨナラで敗れた9回裏、悔しいプレーが相次いだ。同点二塁打の左翼大飛球は追いついていたがフェンスにぶつかった。サヨナラ生還は本塁上タッチをかいくぐられた。ミスと呼ぶのは酷だが、どちらもアウトにできたプレーだった。

 何度も書くが、野球はミスの多い「失敗のスポーツ」である。将棋に似ている。同じ勝負の世界に生きる羽生善治も「将棋でつねに正解の手を出しつづけるのは本当に難しいことで、どうしてもミスが出る」と哲学者・梅原猛との対談で語っている=『教養としての将棋』(講談社現代新書)。だから、大山康晴は「ノーミスをめざすよりも相手のミスを誘うという戦略」をとった。「将棋に勝つためには“他力”が必要なんです」

 相手の力(ミス)も借りながら勝利を目指す。初回4失点のまましのいでいた5回表の反撃がそれだった。当欄読者はおなじみだろう。序盤の4―0は逆転含みだ。次の得点が流れを決める。

 1死一、二塁で近本光司が外角低めカーブを無理に引っかけ一、二塁間に転がした。半身で追いついた二塁手・牧秀悟がこのゴロを後逸。二塁から走者が還った。

 近本の姿勢に感じ入る。凡打というミスも頭に入れ、走者の背中に転がした。進塁打はあるが併殺は避ける打法だ。だから牧は体勢が悪く、俊足近本の疾走が目に入り焦ったのだ。相手のミスを誘う打撃だった。

 これをきっかけに、佐藤輝明犠飛、ロハス・ジュニア適時打、さらに佐藤輝の特大ソロで同点。8回表にはまたも他力(四球と暴投)を借りて勝ち越した。逃げ切れば、最高の勝利だった。

 ただし、「ミスには面白い法則がある」と羽生が著書『決断力』(角川新書)に書いている。「最初に相手がミスをする。そして次に自分がミスをする。ミスとミスで帳消しになると思いがちだが、あとからしたミスのほうが罪が重い。そのときの自分のミスは、相手のミスを足した分も加わって大きくなるのだ」。9回裏は痛恨だった。

 最後に。岩崎優の功労に敬意を払って書くが、今の彼にクローザーは酷ではないか。球威が増し落ちる球も覚えたカイル・ケラーを開幕構想通り抜てきする手はある。再スタートのための敗戦としたい。=敬称略=(編集委員)

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2022年7月1日のニュース