【内田雅也の追球】藤浪が“見せた”3球連続のけん制球 クイック投法にも努力の跡が

[ 2022年2月20日 08:00 ]

練習試合   阪神3-3楽天 ※特別ルール ( 2022年2月19日    沖縄・金武 )

<練習試合 楽・神> 5回、けん制球を投げる藤浪(撮影・大森 寛明)
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 監督、コーチや評論家、そして自分自身がどんな評価をするか分からないが、阪神・藤浪晋太郎が確実に成長した姿を見たと書いておきたい。

 19日の練習試合・楽天戦(金武)。2番手で投げ3回4安打1失点。中越え特大弾を浴び、四球も与えた。だが、成長を見たのは打者に投げた46球ではない。一塁に投げたけん制球だった。

 5回裏2死一塁。走者に代走の俊足・村林一輝が出た場面。打者は前打席で本塁打の田中和基だった。初球を投じる前、一塁に3球連続でけん制球を投げたのだ。

 プロ入り以来、藤浪を見続けているが、3連続とは珍しい。初めてではないだろうか。そのけん制も素早く、村林は3球とも頭から帰っていた。意表を突かれたという帰塁にも見えた。

 藤浪は従来、けん制球が極端に少ない投手だった。苦手ということもあったろう。一時は投手板を外し一塁を見るだけ、偽投するだけだった。イップス論議もあった。

 このため登板時の盗塁阻止成績は平凡で、過去9年通算で企図数119、許盗塁83、盗塁刺36で阻止率・303だった。

 この日のけん制は見事だった。対外試合初登板だった11日の練習試合・日本ハム戦(名護)では二塁けん制が1球だけ。今春初めて見せた一塁けん制で、しかも見たこともない3連続だった。

 何よりネット裏の他球団スコアラーに“見せた”ことが大きい。かつて野村克也はスコアラーに対し、投手のクセや傾向で「3球続けてけん制球はない」といった点を調べさせ、走者スタートの目安にしていた。この日の藤浪を見た彼らは必ず自チームに持ち帰る。今年の藤浪はけん制は素早く3連続もあると伝える。これが相手の足技をためらわせることになる。

 加えて藤浪はクイック投法も進化させていた。同じ場面。田中和への投球タイムは手もとのストップウオッチ計測で、1秒14(カッター)、1秒02!(カッター)、1秒08!(直球)と相当に速い。一塁走者・村林はスタートを切れなかった。

 プロ入り当初は1秒3台で、努力の跡が見えて感慨深くもある。

 さらに田中和の打球は投ゴロ。一塁送球も横手から難なく投げていた。

 投手が崩れる時は、投球そのものより、けん制や守備など投球以外から乱れることが多い。投球に専念できる技術を身につけた姿に成長を見たわけである。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年2月20日のニュース