【内田雅也の追球】「球際」「球運」、木浪に見えた阪神の明暗 「勝利の女神」を振り向かせるには……

[ 2020年8月8日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-11広島 ( 2020年8月7日    マツダスタジアム )

<広・神(6)> 2回1死一、二塁、木浪の打球を好捕した羽月は二塁にトスして併殺を奪う(撮影・大森 寛明)
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 阪神の運・不運、明と暗を象徴していたのは木浪聖也だろう。

 1回裏、遊撃手としての守り。2死二塁から松山竜平の二塁ベース寄り後方への小飛球に飛びついた。グラブに当てたが白球はこぼれ落ち、中前先制打となった。つかんでいれば無失点だったが、この回2点を失うことになった。

 直後の2回表、7番打者としての打席。1死一、二塁で二塁左へライナーを放った。中前打と見えた打球は広島・羽月隆太郎のダイビング好捕にあい、二塁走者が帰塁できず併殺となった。抜けていれば1点返して、なお1死一、二塁。反撃ムードは高まっていた。

 その裏、大量4失点してスコアは0―6。流れは決まった。大リーグで言う「インチの差」が明暗を分けたのである。

 こうしたボールとグラブ(時にはバット)の接点を「球際」と呼ぶ。以前も書いたが、巨人V9監督の名将、川上哲治が造った言葉である。

 <「球際のプレー」「球際の野球」というのはわたしの造語で、相撲の土俵際の強さから採ったものだ>と著書『遺言』(文春文庫)にある。

 <要は土壇場ぎりぎりまであきらめない、粘り強いプレーのことである。捕れそうにない球を飛び込んでいって捕って、捕れなければグラブではたき落としてでも食い止めるプロの超美技のことである>。

 そして<全盛期の長嶋はこうした守備を何度も見せた>。たとえが「ミスタープロ野球」長嶋茂雄(巨人終身名誉監督)とは恐れ入る。

 もちろん、木浪は執念を持って守り、打ったのだが、わずかに及ばなかった。羽月との差を「球際」の強さ弱さとするのは酷だろう。プロとしては禁句かもしれないが「ツキ」がなかった。球運がなかったと考えたい。

 木浪の打球に美技を見せた羽月は高校出の2年目、1軍公式戦初出場だった。打撃でも1回裏に送りバント、2回裏にセーフティースクイズ、5回裏には2点三塁打と、ラッキーボーイ(幸運児)だった。この20歳に運をすべて持っていかれたようだ。

 ただし「ツキがなかった」と考えてもいいのだが、嘆くのだけはやめておきたい。名人にもなったプロ棋士、米長邦雄の著書に『運を育てる――肝心なのは負けたあと』(祥伝社文庫)がある。副題にある通り、敗戦の後の姿勢を重視する。

 <(幸運の)女神の判断基準は二つである。それ以外のことに彼女は目を向けない>と断言している。<一つは、いかなる局面においても「自分が絶対に正しい」と思ってはならない>と<謙虚>をあげる。

 素直な反省も幸運への道だ。5回表に3点を返し4―6と2点差に迫った。その裏、小川一平が敬遠後に勝負した羽月に浴びた三塁打は痛い。6回裏、伊藤和雄が3連続四球を与えたうえ、連続適時打された投球も残念だった。謙虚に思い返せば、反省材料はある。

 そして<もう一つは笑いがなければならない>とある。暗く、沈み込んでしまわず、明るく前を向きたい。

 阪神はこれで40試合を消化。120試合制の今季、シーズン3分の1を終えたことになる。借金2はつらいが、優勝を狙うならば上を見たい。首位巨人も敗れ、6ゲーム差。残り3分の2、まだ希望を捨てるような段階ではない。

 暦の上では立秋、七十二候では「涼風至」(すずかぜいたる)だが、広島の夜は蒸し暑く、選手たちは皆、玉の汗をかいていた。この炎暑の8月が正念場である。=敬称略=(編集委員)

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