【内田雅也の追球】「日常」の5005敗目――必勝継投で開幕戦を落とした阪神

[ 2020年6月20日 07:00 ]

セ・リーグ   阪神2―3巨人 ( 2020年6月19日    東京D )

7回1死二塁、岩崎は吉川尚(右)に逆転2点本塁打を浴びる
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 敗戦投手となった阪神・岩崎優には辛い夜となった。1点リードの7回裏に登板し、逆転2ランを浴びた。眠れぬ夜となったかもしれない。

 継投ミスだろうか。いや、ミスとは言えないだろう。何しろ、6回までにリードなら、7回以降は得意の継投で逃げ切るのが阪神の必勝型である。

 確かに、先発の西勇輝は抜群の投球だった。自ら先制ソロに勝ち越し二塁打を放ち、好判断・好守備もあった。独擅場だった。ただし、長い自粛期間を経て迎えた開幕だ。万全とは言えない状態ですでに6回、97球を投げていた。

 継投を決断した監督・矢野燿大も辛い夜だ。いや、矢野ならば、岩崎を思いやっていることだろう。今後も必ず必要な救援左腕をいかに立ち直らせるか。

 かつて南海(現ソフトバンク)の救援右腕・佐藤道郎は登板3試合連続でサヨナラ本塁打を浴びたことがある。3本目は1973(昭和48)年6月2日の阪急(現オリックス)戦(西宮)で11回裏、長池徳士に浴びた。3戦とも登板時は2点差、1点差、同点での救援で「たまには3点差ぐらいで投げたいよ」と話した。それでも中2日で5日に登板、8、9回を零封した。翌74年にできたセーブ制度で初代最優秀救援投手となった。

 この佐藤を見て江夏豊は学んだ。76年、阪神から移籍。77年に救援に転向した。厳しい場面で登板する佐藤の姿に「リリーフ投手がピンチでマウンドに立つのは、八百屋が白菜を売るようなもの」と悟ったと、玉木正之『プロ野球大事典』(新潮文庫)にある。救援投手が僅差で登板するのは当たり前の日常なのだ。
 恐らく、矢野は何ごともなかったように岩崎を起用し、岩崎は平然と投げる。日常なのだ。

 作家・重松清がプロ野球について<勝敗が日常の一部になる>と、エッセー『うちのパパが言うことには』(角川文庫)に書いている。<勝てば喜び、負ければ悔しがる。ごくあたりまえの感情の起伏が、シーズン中はあざなえる縄のごとく繰り返される>。

 厳しい世界だが、そんな日常が帰ってきたのだ。巨人がプロ野球初の6000勝ならば、敗れた阪神も1936(昭和11)年からしのぎを削り、伝統の一戦を戦う好敵手だ。この夜の敗戦は通算5005敗目だった。

 阪神は球団創設85周年を迎えている。長いシーズンがまた始まったのだ。<今日の試合は敗戦に終わっても、「負け」は決して「終わり」ではない。試合は明日もあさってもある>と重松が書いている。<プロ野球は負けることの許されるスポーツ>なのだ。ならば、豊かな負けを次にどう生かすか。勝負の世界の日常とは、そういうものである。=敬称略=(編集委員)

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