【内田雅也の追球】再起への「夢と志」――中日19歳に初勝利献上の阪神

[ 2019年8月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―3中日 ( 2019年7月31日    甲子園 )

<神・中>4回2死満塁、青柳(左)の投球をファールで粘る山本(右)(撮影・平嶋 理子)
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 阪神敗戦後の31日深夜、甲子園球場のグラウンドは阪神園芸スタッフによって美しく整地されていた。土や芝に水がまかれ、白線が引かれた。本塁周りのダートサークルまで描かれた。

 1日、全国高校野球選手権大会出場校の甲子園練習が始まる。
 1日はまた、高校野球を愛した作詞家・作家、阿久悠の命日である。2007年、70歳で没した。

 阿久は阪神ファンだった。1997年、スポニチ本紙に連載し、河出書房新社から書籍化された小説『球心蔵』(きゅうしんぐら)は万年最下位の阪神が常勝巨人と優勝を争う。シーズン序盤は快調だったが、夏場を迎え失速する。<夢と志だけで七カ月は走れないのである>とある。

 今の阪神のようだ。7月は9勝12敗1分けに終わった。快調に走った春先の勢いはない。ペナントレースは長い。心身とも疲労との闘いである。

 ただ、先の小説で阿久は<技術だけでは勝者になれない>とも書いている。やはり夢や志は必要なのだ。

 この夜は中日先発のプロ2年目、19歳の山本拓実に気圧(けお)されていたようだ。1メートル67の小さな右腕には夢や志が見えた。

 地元の市西宮高出身。一昨年6月3日、同校であった練習試合を観た。登板後、「大学からプロを目指したい」と話した純真な顔を覚えている。その後、大阪桐蔭や報徳学園相手にも快投を演じた。甲子園出場はならなかったが、プロの道が開けた。中日ドラフト6位指名で新たな夢が広がったのだ。

 高校時代に憧れた甲子園での先発登板だ。スタンドには雄姿を見ようと友人や監督、OBらが大挙詰めかけていた。そして期待に応えた。6回を4安打1失点。見事なプロ初勝利だった。

 投球以上に志が見えたのが打席だ。4回表2死満塁で青柳晃洋の球に食らいついた。実に8本のファウルで粘り、12球を投げさせた。1球ごとに三塁ベースコーチ・奈良原浩を見ていた。サインなどない。奈良原が闘志を感じ取り、何とか報いてやりたいと激励の声を飛ばしていたのだろう。

 もちろん、プロは夢や憧れだけで勝てる世界ではない。しかし、夢や希望を見せられないようではプロとは言えない。
 監督・矢野燿大が掲げたテーマをいま一度思い返したい。「誰かを喜ばせる」は立派な夢と志ではないか。

 ちょうど月も変わる。阪神は1日を最後に甲子園を球児たちに明け渡し、夏のロードに旅立つ。再起する節目にしたい。もう一度、夢や志を描くのである。=敬称略=(編集委員)

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