【内田雅也の追球】「流線型」と「遠心力」――ソラーテ2番の破壊力

[ 2019年7月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―6中日 ( 2019年7月30日    甲子園 )

9回無死一塁、ソラーテは左越えにサヨナラ2点本塁打を放ち歓喜のジャンプ (撮影・奥 調)
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 もう何年も前から、大リーグで2番に強打者を置く打線が流行している。セイバーメトリクスでも有効性が示され、潮流となっているようだ。エンゼルスのマイク・トラウト起用が火付け役だったろうか。

 この2番=強打者論は古くは日本にもあった。昭和30年代の西鉄(現西武)黄金期、智将と呼ばれた三原脩は強打の豊田泰光を2番で起用した。3番に中西太、4番に大下弘と並ぶ。先端から徐々に膨らむ形で「流線型」打線と呼ばれた。

 2番に新外国人ヤンガービス・ソラーテを置く、今の阪神もちょっとした流線型だ。強打を生かすため、一塁に俊足走者の近本光司がいても、ソラーテにはノーサインの「打て」だ。二塁打など長打を「待つ」のも実は立派な戦法である。

 この夜、1―2の5回裏、先頭の近本が中前打で出たが、ソラーテには「打て」。期待に応え、左中間に一時逆転となる2ランを運んだ。

 近本は基本的に盗塁は自由に走っていい「グリーンライト」(青信号)である。だが、ソラーテの打席では「走るな」の赤信号が灯っていたのではないか。

 前の打席、2回裏2死一塁でも感じた。投手の大野雄大は3球けん制球を放るなど近本の足を警戒していたが、走る気配はなかった。

 それは土壇場でも同じだった。1点を追う9回裏、先頭・近本が右前打で出た。同点の走者である。ソラーテにはむろん強攻策で、初球を左翼ポール直撃、この夜2度目の逆転2ランを放ち、劇的なサヨナラ勝利を呼んだのだ。

 ただ、まだ実力が知れないソラーテは攻守に両刃(もろは)の剣でもある。遊撃守備ではミスが相次いだ。ゴロは弾き、打球に追いつけず、一塁へ悪送球し……と乱れ、失点につながった。大リーグ時代は三塁手での出場が最も多く405試合。次いで二塁手178試合、遊撃手は47試合、一塁手42試合、左翼手16試合……。他選手との兼ね合いで、手探りと苦肉の遊撃起用を行っている状態である。

 「ピッチャーズ・パーク」(投手優位)の甲子園では守備重視の布陣が望ましい。監督・矢野燿大も用兵に頭を痛めていることだろう。

 一方で、2番・強打者を考案した三原は<選手は惑星である。この惑星、気ままで時には軌道を踏み外そうとする。その時、発散するエネルギーは強大だ>と著書『風雲の軌跡』(ベースボール・マガジン社)に記した。

 自ら<遠心力野球>と呼んだ。<遠心力は自由であることからスタートする><求心力が「管理」を体質とするのに、遠心力は「個性」を尊重する>。

 豊田も遊撃手で当初は失策が目立った。ところが時にとんでもない活躍をした。今のソラーテにも遠心力が働いているようである。=敬称略=(編集委員)

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