【内田雅也の追球】「やさしさ」こそ最強――連夜の敗戦投手に贈る言葉

[ 2019年6月20日 08:30 ]

交流戦   阪神4―9楽天 ( 2019年6月19日    甲子園 )

10回、無死満塁のピンチを招いて降板する守屋(中央)(撮影・坂田 高浩)
Photo By スポニチ

 連夜の敗戦投手となった阪神の守屋功輝は眠れぬ夜を過ごしているだろうか。前夜(18日)は故郷の倉敷で同点の8回表に登板して決勝点を失った。この夜(19日)は延長10回表に登板し、四球、バスターエンドランの安打、四球と1死も奪えず無死満塁を招いて降板した。雪辱への思いも砕け散る夜となった。

 問題は先頭打者ブラッシュへの四球だろう。阪神でも楽天でも監督を務めた星野仙一が「先頭への四球は7割が失点(得点)になる。野球百年の教えだ」と話していた。

 実際の統計値はもっと低い値だが、そんなことはどうでもいい。実際、先頭打者への四球で試合が決まることは多い。

 もったいないことに、0ボール―2ストライクと追い込んでから4球連続ボールだった。フォーク、速球、スライダー(カーブか)と誘ったが、すべて見極められた。

 名捕手だった梨田昌孝は2ストライクからフルカウントに至る投手心理を「狙ってボール、力んでボール、焦ってボール」と表現している。著書『戦術眼』(ベースボールマガジン社新書)にあった。

 投手絶対有利の0ボール―2ストライクではすぐ勝負にいくよりも際どい所を狙って外れる。1―2となり「決めよう」と力が入ってボール。2―2の平行カウントとなると「せっかく0―2だったのに」と気が焦って3―2となる。もう、優位も何もないというわけだ。

 つまり、追い込んでから決め球を投げるには、力みや焦りもなく、堂々勝負にいく度胸と技術がいるわけだ。

 では、守屋は精神的に弱いのか。

  彼は覚えていないだろう。プロ1年目を終えた2015年12月4日、尼崎市の「一日人権擁護委員」として駅前商店街でビラなどを配るイベントを取材した。中年女性や老人男性、女子中高生らに丁寧に握手していた。やさしさがにじみ出ていた。壇上で「守屋という名前を覚えていてください」と訴えていた。

 斎藤雅樹(巨人)の有名な逸話を思う。「気が弱い」が定評だった斎藤に監督・藤田元司は「おまえは気が弱いんじゃない。気がやさしいだけ」と声をかけた。「ちょっと慎重になりすぎる。もう少し大胆にやってみろ」。この言葉で覚醒し、プロ6年目の1989年から2年連続20勝を達成、大エースとなった。

 ランディ・ジョンソンを思う。サイ・ヤング賞5度、身長2メートル8の左腕である。ダイヤモンドバックスにいた2001年に取材した。ナ・リーグ地区シリーズ第2戦で敗戦投手となった。会見場に現れると、いきなりマイクを握り、目の前の記者団に投げつけようとした。

 「昔はこんなことをしたこともあったね」冗談だった。「昔はこのように怒りを力にしていた。でも今はもっと強い力があるのを知っている。それは、やさしさだ」

 この言葉を彼に贈りたい。そして、悔しい敗戦だったと記憶しておくことにする。=敬称略= (編集委員)

続きを表示

「第101回全国高校野球選手権大会 各地区結果」特集記事

「第90回(2019年)都市対抗野球大会」特集記事

2019年6月20日のニュース