右膝前十字靱帯損傷の照ノ富士 公傷制度なき今 手術は難しい決断

[ 2015年12月6日 14:15 ]

 大相撲は先月の九州場所で横綱・日馬富士が2年ぶりに優勝して1年を締めくくった。今年最もブレークした力士と言えば、モンゴル出身の24歳、照ノ富士(伊勢ケ浜部屋)だろう。5月の夏場所で初優勝し、大関に昇進。6場所中4場所で優勝争いに絡んだ。だが、9月の秋場所で右膝の前十字靱帯を損傷した影響で九州場所は9勝止まり。綱取りのチャンスも先送りとなり、尻すぼみに終わった。

 膝の関節が緩んでいるため、踏ん張りが効かない。再発の怖さもあって、全力で動けない。力なく土俵を割るシーンも多かった。痛みもあったと思う。持ち味であるパワフルな相撲が取れず、もどかしい気持ちも強かったと思う。それでも「ケガした自分が悪い」と言い訳をせず、一度も休まずに土俵に上がり続けた。そのプロ意識の高さには頭が下がる思いだ。

 膝の前十字靱帯を損傷するアスリートは多い。医療技術の進歩した近年、他競技では靱帯の再建手術を行うことが一般的だ。リハビリに6カ月~1年を要するが、ほぼ負傷前のパフォーマンスまで戻すことができる。フィギュアスケートの高橋大輔は手術翌シーズンの五輪で銅メダルを獲得した。

 だが、照ノ富士は手術を回避し、膝周辺の筋力を鍛えて補う保存療法を選んだ。ある程度まではカバーできるとはいえ、どれだけ鍛えても以前と同じパフォーマンスを発揮するのは難しい。再び負傷する可能性も高い。それでも手術を選ばなかったのは「手術したら休まなければいけない。休んだら番付が落ちる。落ちたくない」からだ。公傷制度が廃止された現在の相撲界では、休めば番付は容赦なく下がってしまう。だから、大ケガをしてもなかなか手術に踏み切れない。3月の春場所で左膝の前十字靱帯を損傷した遠藤も手術を回避した。残念ながら、その後の遠藤は以前ほどの元気がない。

 九州場所後の横綱審議委員会では公傷制度についての話題が出たという。かつて公傷と認められれば、翌場所は休場しても番付が下がらなかった。しかし、安易に公傷を申請する力士が頻出したことで、廃止せざるを得なくなった。公傷制度の復活が必ずしもいいとは思わない。休場力士が増えれば、せっかくの相撲人気回復に水を差すことになる。ただ期待の力士が無理を続けて、つぶれていく姿はできれば見たくない。

 照ノ富士は「若い時はやってやろうと気持ちがあれば乗り越えられるんじゃないかと思う」と前向きにケガの克服に励んでいる。それでも、もし来年、再び同じ箇所をケガしたり、パフォーマンスが戻らないのならば、手術する選択肢を加えていいのではないだろうか。整形外科医である守屋秀繁・横審委員長(千葉大名誉教授)は「治るケガと治らないケガがあって、どこまで頑張れと言っていいか難しいところがある。ただ治せるケガは治して出場していただきたい」と話した。若いからこそ、例え番付が下がっても出直すチャンスは十分あると思う。(柳田 博)

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