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意見衝突も熱意表れ…マダイ愛で心ひとつ

[ 2018年3月3日 12:43 ]

謙信丸の上で腕組みをする武雄(左)と文明。頑固なところも似た者同士か
Photo By スポニチ

 新潟県上越市。マダイなど日本海・直江津沖の魚を狙う、えびすや釣具店の親子船が「謙信丸」だ。新潟のマダイ釣りではパイオニアの父の背中を息子は追いかけてきた。時には反目し合いながら、2人協力して“家業”を支え続けている。 (笠原 然朗)

 釣り船の船長は船酔いしない…なんてことはない。

 文明「釣り船のかじを握るようになって30年以上になりますが、最初の頃はつらかった」

 武雄「戻すことはないけど頭が痛くなったりするので、(酔い止め)薬を飲んで乗るときもあります」

 そろって酒も苦手。親子は似た者同士?

 文明「船上でお客さんと話をするのは得意じゃない。顔も覚えられないし。宴席で酒をついで回るのも苦手」

 武雄「普通についで回れるよ。一回、乗ってくれたお客さんの顔は分かる」

 宴会では常に陽気に振る舞っている文明さんを知っているだけに意外な発言。釣りに関しては?

 文明「魚がいる場所を常に探して移動を繰り返している」

 武雄「慣れないお客さんが多い場合は、魚が来るまで待つこともあります。ゆっくり釣ってもらいたいし。どちらかというとお客さんに合わせています」

 文明「お客さんは“俺に合わせろ”と思っている」

 お二人とも奥さんや家族に対しても…。

 文明「武雄は家の風呂を洗ったりしている。俺はそんなことはしたことがない」

 武雄「時代だよ。別に苦にはならないし」

 文明さんは釣り具店経営の延長線で1980年(昭55)に遊漁船業を始めた。

 文明「最初は客としてほかの釣り船に乗って釣りのことや操船技術を覚えた。人を雇ってやっていて、5年してからかじを握るようになった」

 一方の息子は…。

 武雄「後を継ぐとか何も考えていなかった。早く働きたくて高校を中退。ほかの仕事をしながら家の手伝いをしていたけど、新しい船ができたんで船に乗ることにしました」

 文明さんは、“釣らせる”ことにおいてピカ一の腕を持つ。

 武雄「反応の見極めや、ポイント選びはさすが。釣れなくて困ったときは電話して聞いています」

 文明「昔はマダイの“乗っ込み”の時期を聞かれるとピタリと当てたものだ。でも今は当たらない。釣れる場所も変わったな」

 地球規模の気象変動のせいか?そんな折、親子船が転機を迎える。2015年、文明さんが心臓と脳の病気で倒れる。今はすっかり回復したが…。

 武雄「その時は目の前が真っ暗になったけど、1人でやってみて船長の面白さに目覚めた。何で釣れたのか、釣れなかったのか深く考えるようになった。腹も据わりました」

 この親子の手綱をしっかりと握っている摩利子夫人(60)は言う。「武雄、おまえに働いてもらわないとうちは食べていけないんだよ」

 武雄は、夜釣りのシーズンになると一日4便、24時間態勢でかじを握る。超がつく働き者なのだ。

 船長になってよかったのか?2人に聞いた。返ってきたのは異口同音に「これしかないです」。

 武雄が目指すのは「釣れないときもお客が来てくれる」船。「釣れる、釣れないは関係なく、俺の船に一日乗って“楽しかった”と言ってもらえるように心掛けています」

 ▼釣況 上信越地区東日本釣宿連合会所属、直江津・えびすや釣具店=(電)025(543)8316。

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