柔道女子70キロ級・新井「自分を信じて報われた」金メダル 柔道界の“笑わない女”が最高の喜びと笑顔

[ 2021年7月29日 05:30 ]

東京五輪第6日 柔道 ( 2021年7月28日    日本武道館 )

<柔道女子70キロ級決勝>金メダルを獲得しガッツポーズを見せる新井(撮影・会津 智海)
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 柔道・女子70キロ級で初出場の新井千鶴(27=三井住友海上)が決勝でミヒャエラ・ポレレス(オーストリア)に優勢勝ちし、金メダルを獲得した。柔道女子の金メダルは52キロ級の阿部詩に次ぐ2人目。

 27年間、生きてきた中で、最高の喜びと笑顔だった。決勝は1分すぎ、小外刈りで技ありを奪った後も果敢に攻め、女子日本代表の増地克之監督も「冷や冷やした」ほど。それでも無事に金メダルを告げる銅鑼(どら)の音を聞くと、畳の上で白い歯をこぼした。

 「うれしいです。その一言。何度もくじけそうになったが、信念をぶらさずにここまでやってきて、結果が付いてきて良かった」

 リオ五輪代表落選からの5年間を凝縮したような試合が、準決勝のタイマゾワ戦だった。22歳の新星と足技の応酬を繰り広げ、試合は延長12分を突破。内股をすかされビデオ判定となった時は「祈った」というが、試合が再開されると前に出て、相手が掛け崩れたところを送り襟絞めで失神させた。

 多くの五輪メダリストを育てた三井住友海上の柳沢久師範が「ほれぼれするような技がある」と認める存在。だが真っすぐ過ぎる性格が出世を阻んだ。15年、初の世界選手権代表に選ばれたが「田知本選手の失敗があって選ばれたと思った」。16年のリオ五輪で金メダルを獲ることになる田知本が、規定違反で代表選考から脱落。“敵失”で選ばれたと思い込んで気持ちが入らず、女子9代表で唯一メダルを逃した。

 17、18年の世界選手権を2連覇したが、その後は世界のマークに苦しんだ。目の前が開けたのは、同階級で五輪2連覇を達成している上野雅恵監督に「勝つことが大事。過程は気にすることはない」と金言を与えられた今年。正統派が準決勝のような死闘も気合で乗り切った。「自分を信じてきて報われた」と新井。普段は硬い表情が多い柔道界の“笑わない女”は、その看板を下ろすように笑顔を輝かせた。

 ◇新井 千鶴(あらい・ちづる)1993年(平5)11月1日生まれ、埼玉県出身の27歳。世界選手権で15年に5位となり17、18年と2連覇。五輪は初出場。17年の全日本選抜体重別選手権優勝。得意は内股。埼玉・児玉高出。三井住友海上。1メートル69。

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