卓球 親善試合開催に“クラファン”使い実戦機会、金獲りへ工夫惜しまず

[ 2021年6月3日 05:30 ]

2020+1 DREAMS 五輪開幕あと50日、選手&関係者が抱える不安

1月の卓球全日本選手権に出場した石川
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 新型コロナウイルスの影響で1年延期となった東京五輪は3日で開幕まで50日となった。いまだ感染収束の見通しが立たない状況に開催へ世間の風当たりも強まる中、五輪代表選手や現場スタッフは、不安を抱えながらも開催を前提に準備を進めている。昨年から国際大会は中止が相次ぎ、海外での合宿も思うようにはできないなど、従来とは異なる調整を強いられている競技は多い。悩める現場の今をリポートする。

 卓球は19年には15大会以上あった国際大会がコロナ禍で20年は主要5大会に激減し、21年もわずか2大会。海外ツアーを強化につなげていた日本代表選手たちは試合勘の欠如、感染リスクの不安とともに延期の1年間を歩んできた。現在の準備状況はどうなのか。日本卓球協会の宮崎義仁強化本部長(62)に話を聞くと、「去年と比べたら練習環境は良くなった。(五輪に向けた)準備はできている」と前向きな言葉が返ってきた。

 そう言い切れるまでには多くの苦難があった。日本は19年12月にシングルス、20年1月に団体の代表選手が決定。他競技に比べて早めに強化に着手することができたが、コロナで状況が一変した。

 最初の緊急事態宣言が発令された昨春、強化拠点だった東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)が閉鎖。世界ランク4位の張本智和(木下グループ)は仙台市の実家に帰省するなど代表選手は所属先での練習に切り替えざるを得なかった。

 選手は代表合宿を通じてさまざまなタイプの選手と対戦することで対応力が磨かれるため、常に同じ相手と球を打ち合う母体での練習だけでは足りない。密を避けるため、一時ダブルスの練習もストップした。「NTCが使えず、能力を上げるには練習不足だった」と当時の苦しい状況を明かす。

 室内で行う対人競技という性質上、感染の不安も隣り合わせ。現在も5日に1度のPCR検査を実施しているが、選手の不安は拭えなかった。ある選手は、家族に感染を広げてしまうかもしれないという不安もあって、練習に行くことができなかったという。「相当な悩みを持っているという報告は受けていた」。選手には専門スタッフとの対話を通して医者やメンタルトレーナーを紹介。選手が抱える不安を解消することが重要なポイントだったと明かす。

 昨年6月にNTCでの練習が再開したことで強化面では光も見え始めた。激減した実戦機会を創出して、低下していた代表選手のモチベーションを高めるために、宮崎氏は「試合がなくなったのは全世界一緒。日本だけ不利という感覚はない。ただ、国内だけでも実戦の場を設けようと努力した」とクラウドファンディングで資金を募った。300万円の目標設定は5時間足らずで達成。最終的には約1100万円まで伸びて寄付に回せるほど集まったという。9月に日本代表選手とTリーグ選抜が対戦する親善試合をいち早く開催。久々に緊張感のある試合を行い選手たちに笑顔が戻った。また、昨年11月に開幕した国内プロのTリーグでは多い選手で約20試合出場した。「世界でもこれだけ経験が積めた国はない」と一定の手応えをつかんだ。

 一方で、国際大会がなかったことは五輪にどう影響するのか。宮崎氏は「そんなに心配していない」と語る。中国選手対策として協会所属の中国人コーチから指導を受けていることに加え、リオ五輪から増員した映像分析班のデータを代表選手と共有することで国内にいても海外の動向が把握できているという。

 現在、懸念材料の一つはワクチン接種だ。1日からは五輪代表選手の接種が始まった。現時点では卓球は希望制。選手の中には副反応や、優先接種に対する後ろめたさなどから打たないことを希望している選手もいる。「打たない考えも理解できるが、周りにうつさないというのも重要な役目の一つ。ウイルスを地球上からなくすという意味でも打ってほしい」と複雑な心境を明かす。

 初の金メダル獲得を目指す卓球は7月24日から男女シングルス、混合ダブルスの1回戦が始まる。あと50日。宮崎氏は「感染せずにここまで来た。最大パフォーマンスを出せる下準備はできている。今は期待しかない」と語った。

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