卓球・吉村真晴の手 第二関節のマメに詰まったでっかい夢

[ 2020年10月5日 12:01 ]

吉村真晴
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 アスリートの“手”は口ほどに物を言う。競技のこだわりがそこに詰まっている。

 卓球の吉村真晴(27=愛知ダイハツ)の右手中指と薬指の第二関節の下には、硬いマメがある。熱血卓球一家で育った幼い頃にでき、以後消えたことがない、努力の証のようなものだ。写真では少し見づらいけれど、ポコっと出ている。卓球選手でも、そこは珍しい場所だそうだ。

 「僕はこの2本の指に力を入れて打つ。強打の時もレシーブの時も、ここに力を入れて球をコントロールしている。だから、マメができるんですかね」

 フォアとバックの両ハンドの強打も、同じフォームで上回転と下回転を打ち分ける世界にとどろく「アップダウンサーブ」も、この2本の指を軸にして生まれている。

 手のひらの変化に敏感なのは、職業病のようなものだ。「筋トレをした翌日は、むくんで感覚が変わって打ち方も変わる」という言葉は、他の部位よりも右手に神経が多く通っているかのようである。理想は「ラケットを体の一部のように使えること」。中学時代、利き手親指の腱を断裂する絶体絶命の危機に陥りながら、日頃の鍛錬とド根性を支えにして、全国8強になった武勇伝もある。

 この手で、数々の栄光をつかんできた。高校(山口・野田学園)3年生にして全日本選手権シングルスを制覇。16年リオデジャネイロ五輪団体では、ニッポン男子卓球界初のメダルとなる銀獲得に貢献した。石川佳純とのコンビで、世界選手権の混合ダブルスで獲得したメダルは金1つ、銀2つ。東京五輪代表争いに敗れたとはいえ、Tリーグで活躍するトップ選手である。

 「まはる」という名前は、母・リリベスさんの母国フィリピンのタガログ語で、「愛する」という意味だそうだ。愛するというよりも愛され、日本代表では兄貴分的存在として頼られ、テレビ出演にもよく声がかかる。メダリストとして「ジュニア選手に経験を伝えたい」と普及への使命感を抱くとともに、「スポーツ選手が引退後に安定した生活が送れるようなシステムをつくりたい」と、陸上短距離の藤光謙司らとともに、アスリート支援の活動を始めた。

 両手に抱える大志は、24年パリ五輪のメダルだけではない。(倉世古 洋平)

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2020年10月5日のニュース