メダルは尊く、そしてはかない

[ 2019年12月31日 10:00 ]

7人制ラグビー日本代表の坂井克行
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 金メダルと銀メダルには、大きな差がある。銀メダルと銅メダルには、それほど大きな差はない。だが銅メダルと4位には、また大きな大きな差がある。

 以前、山下泰裕氏がそう解説してくれたのを聞いた。現役時代はあまり銀や銅とは縁がなかったであろう同氏だが、長い柔道指導者のキャリアを経ての言葉には、重みと説得力があった。

 ふと、1年以上前に聞いた言葉を思い出したのは、7人制ラグビー日本代表として2度目の五輪を目指す坂井克行(豊田自動織機)の言葉を聞いたからだ。

 「成田空港から愛知県の自宅に帰るまで、誰からも声を掛けられることなく家に着いた。新幹線はおじさんとおじさんの間で丸くなって帰ったのを今でもはっきり覚えている。やはりメダルがあれば、こんなことにはならなかったのかな。やはり4位と3位は、非常に大きな差がある」

 16年リオデジャネイロ五輪は見事準決勝に進出するも、金メダルを獲得することになるフィジーに敗れ、3位決定戦は南アフリカに大敗して4位。前年に行われたW杯イングランド大会で活躍した15人制代表同様、初戦でニュージーランドを破る大物食いで一時的に注目は集まったが、他競技のメダルラッシュに沸く五輪において、関心をつなぎ止めておくのは簡単ではなかった。

 人々の注目以上に大切だったのが7人制代表のプレー環境面の改善だったが、坂井は「大きく変わると思ったが、そうではなかった」とため息をついた。リオ後の3年間に日本協会との専属契約制度が導入され、トップリーグ所属選手がより集中して五輪を目指す体制が整えられたが、現場に身を置く選手の実感に大きな変化はないということだろう。残念ながら国際大会の成績を見ても、現時点で大きな発展は見られない。

 W杯で人気が沸騰し、1月12日に開幕するトップリーグのチケット売れ行きは好調だ。一気呵成(かせい)に日本ラグビー界全体が波に乗り、より良い方向へ進むと思いきや、日本協会の清宮克幸副会長が音頭を取るプロリーグ新設の構想は、「プロ化を前提としない新リーグ」を21年から始める、に変わった。これを頭ごなしにトーンダウンと評価するつもりはない。ただ、W杯の熱や日本代表8強入りの勢いをもってしても、変化を起こすことの難しさは、内外に示されてしまったように思う。

 15年、16年、そして19年も、日本代表は私の想像を超える結果を残した。迎える20年の東京五輪、思うように結果が表れていない現状だが、特に男子代表はメダル獲得の可能性が十分にあると見る。一方でメダル獲得だけでは、7人制をめぐる環境は変わらないだろう。10年以上、7人制代表で身を粉にする坂井の思いを具現化する組織、あるいは人物が、昔も今も見当たらない。

 選手の頑張りに応え、各所属チームの犠牲に報いながら、オーガナイザーたる日本協会を先頭に一体となって未来へ進む。2020年はそんな年になることを祈念し、2019年の筆を置きたい。(記者コラム・阿部 令)

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