サーフィン東京五輪“内定”五十嵐カノア スタンスは地球人、世界中どこでも「庭」

[ 2019年10月22日 10:10 ]

2020 THE STORY 飛躍の秘密

3歳からサーフィンを始めた五十嵐は東京五輪で初代王者を目指す(撮影・岡田 丈靖)
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 東京五輪で初採用されるサーフィンの日本のエースは五十嵐カノア(22=木下グループ)だ。今年5月にプロ最高峰チャンピオンシップツアー(CT)第3戦バリ大会で日本人初制覇を果たし、今月17日には暫定的な東京五輪出場権獲得が発表された。米国を拠点に世界中を転戦する“逆輸入”サーファーの生い立ちや素顔を、父・ツトムさん(55)と日本サーフィン連盟の宗像富次郎副理事長(58)が語った。

 元サーファーの両親はカノアが生まれる前から決めていた。「将来は海外に住んで、子供がサーフィンのできる環境で育てよう」。本場の米カリフォルニアに移住した両親による英才教育で、カノアの才能は開花した。3歳で波に乗り、9歳で米国のアマチュアチームの強化選手に選出。12歳で全米アマチュアサーフィン連盟主催試合で30勝を挙げて最多優勝記録を塗り替え、13歳でプロに転向した。元々スポーツトレーナーだった父・ツトムさんは「前は(トレーニングを)教えていたけれど、今では俺よりも詳しくなった」と今では陰ながら見守る。

 18歳からアジア勢で初めてCTに参戦し、世界中の海を転戦する。カノアはどんな場所でも自分の庭のように振る舞う。ツトムさんは「どのコンディションでも大好き。だから常に強い。どこにいても順応力が凄い。日本がどうとかではなく、地球に住んでいる地球人みたいな感じ」と言う。遠征からカリフォルニア州ハンティントンの自宅に帰ってきても、滞在するのは長くて2~3週間。「洋服はスーツケースから出してくる。そのまま“行ってくるね”と」。世界中の海がホームだ。順応性の高さが安定した成績につながっている。

 成長の分岐は2013年、15歳のときにさかのぼる。将来CTで戦うことを見越し、オーストラリアで行われた大会を観戦。大会後にその海で練習したが、空中技で失敗し、左足のすねを骨折した。初めての大ケガだったが、大会に出場していた全CT選手がお見舞いに来てくれたという。特に感銘を受けたのが、世界王者に過去11回君臨した“皇帝”ケリー・スレーター(米国)の来院。「どこにいても自分の家のような環境で、ホームシックにならないようにってケリーに言われていた。それを忠実にまねしているんだと思う」。皇帝との邂逅(かいこう)が、進化の鍵になった。

 バリ大会ではCT参戦4年目で初優勝した。ツトムさんは「うれしかったけど、凄く喜んだわけではなくて。世界で通用するんだな、っていうのを確認したと思う」と語る。身長1メートル80で、1年目の体重は70キロだったが、現在は80キロにパワーアップ。トップで戦える体が出来上がった。「これまではボードの調子が良くても、体に合わせて替えたりしなくちゃいけなかった。今は体重も安定してきたから調子の良いボードをずっと使えるようになる。ここまでの3年間は勉強。これからがスタート」と期待する。

 日本人初の快挙に「やっと勝ったな」と冷静に語るのは、日本サーフィン連盟の宗像富次郎副理事長だ。日本代表コーチでもある同氏は「裏表がなく、ネガティブなことは言わない。これは練習になるような波じゃないなって時も、○○の技の練習になります、って言って入っていくんですよ」と苦笑いを浮かべる。常にポジティブで、技術は世界のトップレベル。「最新の技を習得している勉強家。他の選手もカノアのいいところを吸収しようとしている」と日本代表選手のレベル底上げにもつながっている。

 今年9月に宮崎で行われた世界選手権に相当するワールドゲームズ(WG)では、チームリーダーであるカノアを中心に団結力がアップ。男女ともに日本代表選手がアジア枠を獲得した要因となった。宗像氏は「仲間で身近な存在だから、いろいろ聞けるのだと思う。カノアがいることで、代表にとってプラスになってます」。ともに日の丸を掲げる選手にとって、世界のトップで戦う経験者の影響は計り知れない。

 五輪本番会場となる千葉県一宮市の釣ケ崎海岸は、ツトムさんがかつて移住し夢を追ったゆかりの地でもある。悲願の初代金メダリストへ、世界の荒波に堂々と挑む。

 ≪「日本のファンのため」大技で魅せる≫東京五輪代表をほぼ決めた五十嵐は「新しい挑戦が楽しみだ。国を代表して五輪に出られることを誇りに思う」と心躍らせている。15年にアジア勢で初めてCTに参戦すると、年間20位―17位―10位と着々と力を付けてきた。今年はCT全11戦中9戦を終えて年間ランクは6位。5月の第3戦で日本人初優勝を飾り「世界チャンピオンのレベルのサーファーになったのかなっていう自信につながった」と語る。以前は器用な空中技が得意だったが、最近は波の頂点まで上ってターンする「オフザリップ」などダイナミックな技で魅せる。「日本のファンのために、東京で日本人が五輪の金メダルを獲る」。母国の誇りを胸に初代五輪王者を目指している。 

 【五十嵐 カノア(いがらし・かのあ)】
 ☆生年月日 1997年(平9)10月1日生まれ、米カリフォルニア州出身の22歳。
 ☆サイズ 1メートル80、80キロ。
 ☆家族 父・ツトムさん、母・美佐子さん、弟・キアヌさん。カノアはハワイ語で「自由」。
 ☆語学 日本語のほか、英語、ポルトガル語、スペイン語、フランス語を操るマルチリンガル。
 ☆国籍 米国と日本の二重国籍。競技者としては18年4月に米国から日本への登録変更が認められ、日本協会の18年度強化指定選手に選ばれた。
 ☆その他 CTに参加する全選手に背番号が配られる。各選手好きな番号を選ぶシステムで、五十嵐は名字を意識して「50」。

 ▽サーフィン東京五輪への道 男女とも20選手が参加し、国枠は最大2。条件は(1)CTで年間ランキング上位のうち各国3番手以下を除く男子10人、女子8人(2)今年のワールドゲームズ(WG)でアジア、欧州、アフリカ、オセアニアの各大陸最上位(3)来年のWGで条件(1)を満たした選手を除く上位4人。(1)の優先度が最も高い。五十嵐は今年のCT年間ランキングで要件を満たすことを確定。来年のWGに出場するなどの条件があるため、現時点では暫定的な出場権獲得となる。(2)で男子は村上舜、女子は松田詩野が条件付き出場権を獲得している。

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