森名誉会長が去り…注目したい日本ラグビー協会の今後の舵取り

[ 2019年4月22日 10:00 ]

森喜朗氏
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 日本ラグビー協会の森喜朗名誉会長(81)が17日、電撃的な退任を自ら表明した。

 実はこの日の理事会では、新たなガバナンスのあり方が話し合われていたという。スーパーラグビーのサンウルブズの除外問題などを通じ、内外から欠陥を指摘されていた日本協会。透明性、そして以前から指摘されていた意思決定の速度を高めるため、少人数の部会設置が検討された。

 他競技の中央団体の一部には、常務理事会が存在する。ただ、幹部による構成となる常務理事会だと、結局は密室政治などと批判されかれないため、別の形を模索したという。本当に兆しレベルかも知れないが、自浄作用が働こうとしていた矢先、森元会長が理事会最中に訪れ、自らの退任と、現体制の刷新を求めたことになる。皮肉としか言えない。

 森元会長のラグビー界での功績はここでは触れないが、ラグビー愛については少し触れたい。協会会長職と20年東京五輪組織委員会会長を兼務していた14~15年。ある時、全く別の取材で日本協会に多くのメディアが詰めていた中、突然来訪した。所用が済んで帰りの車に乗り込む前に話しかけに行くと、「僕はラグビー出身の人間だから、こっちでは皆さんとはお話するんですよ。でも、あっち(五輪組織委)はどうもね」と疲労感を漂わせながらも、にこやかに応じてくれた。ラグビーこそ自分の原点。だからラグビーを取材する記者は大切にする。そんな思いを語り、実際に懇親会などの席では気軽に談笑にも応じてくれた。だが残念ながら、今は変節してしまったようだ。

 17日、報道陣から突然の来訪理由を尋ねる問い掛けに、元会長は「関係ない」とだけ発して帰りの車に乗り込んだ。その時点で言葉の真意を読みかねていたが、出席者への取材や坂本典幸専務理事のブリーフィングにより、電撃的に名誉会長を辞したことが明らかになった。その一言の意味は、「(君たちには)関係ない」だったのか、あるいは「(もうラグビー協会には)関係ない」だったのか。少なくともラグビー担当記者の取材に丁寧に応じていた当時からは、がらりと変わってしまったことが寂しい。

 森元会長が辞意を表明したのは、正確には理事会終了後のこと。岡村正会長(80)をはじめとする現体制の刷新や若手理事の登用を求めたのは、議事録には残らない一種の提言だ。しかも五輪招致疑惑でフランス司法当局の捜査対象となっている日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長(71)が、あくまで定年を理由に退任することを、あえて語ったという。出席者によれば、直接的に岡村会長の退任を迫る言葉は一切なかった。しかし出席した理事全員が残る中での40分間の独演会。その老かいな政治的な手法も含め、絶大な力を及ぼすことは明白だ。

 今後、日本協会はどう舵を取るのだろうか。体制や組織運営が見直されることは賛成だが、このままでは森元会長の圧力を受けた結果と見られるだろう。そうした前例をつくってしまえば、今後も名誉会長の肩書きがなくとも隠然たる力を持つ同氏の影響力は免れない。ガバナンスの改善を目指しながらも、別の欠陥は残り続ける矛盾。解の見えない模索は、6月の改選まで続くことになる。(記者コラム・阿部 令)

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2019年4月22日のニュース