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【コラム】金子達仁

“日本のネイマール”三笘薫 ベルギーで無双を

[ 2021年8月19日 08:00 ]

日本代表の集合写真におさまる三笘薫(11番)(撮影・坂田 高浩)
Photo By スポニチ

 アルゼンチンの歴代センターバックの中で、わたしが一番好きなのはダニエル・パサレラ。W杯スペイン大会後に発売されたサッカーマガジンの増刊号には「キャプテンは死ぬまで闘った」というキャプションがあった。あとにも先にも、あんなにも胸に響いた一文はない。自分が伝える側に回ってからは、ああいう一文を書くのが目標であり夢だった。

 次に好きだったのはマウリシオ・ポチェッティーノ。カマーチョ監督率いるエスパニョールの最終ラインを支え、バルサやレアルに敢然と立ち向かった。02年W杯のイングランド戦で、自らの反則でPKを与えてしまったあとの鬼気迫る攻撃参加は、いまでも忘れられない。

 なので、心配である。

 エムバペ、メッシ、ネイマール。彼が率いるパリSGは、ついに世界最高の3人を前線に並べることになった。ほとんどゲームの世界のようなメンツが揃(そろ)ってしまった以上、リーグ優勝は当然として、CLを獲らない限り袋叩きが待っているのは確実。世界のサッカー史上、これほど過酷なノルマを課せられた監督はいなかった気がする。

 そうそう、ネイマール、とキーボードを叩いたら思い出したことがあった。メキシコに住んでいる友人からメッセージが届いたのだ。

 「こっちのアナウンサー、ネイマールみたいだ!って叫んでましたよ」

 これ、実は東京五輪のサッカーにおける嬉(うれ)しいニュースベスト3に入る出来事だった。メキシコ人のアナウンサーが叫んでいたのは3位決定戦で、ネイマールにたとえられたのは日本の三笘だったからである。

 ちょっと才能のある選手に対して、〇〇のマラドーナ、とかやりたがるのは、世のマスコミの習いでもある。わたし自身、30年ほど前に四日市中央工の左利きの選手に「和製ラウドルップ」なるニックネームを献上したことがある。残念ながら、本人はまったくお気に召さなかったようだが。

 話が逸(そ)れた。とにかく、他国のメディアが、自国と対戦している相手に対してネイマールをなぞらえるのは、ちょっとあることではない。少なくとも、わたしは日本を圧倒しているメキシコの選手を見て、「うわ、誰それみたいだ」とはまったく思わなかった。

 つまり、それぐらいあの日の三笘は凄かったのだ。

 過酷な日程もあり、3位決定戦でのメキシコは疲れ果てていた。それまでフル出場のなかった三笘が彼らを翻弄(ほんろう)したのは、そのせいだったかもしれない。

 それでも、基本的には自国の選手に目が行きがちな国際試合の中継で、相手国のアナウンサーの度肝を抜いたことを、三笘は忘れないでほしい。

 ネイマールは、どんな試合でもネイマールだったから、ネイマールだった。川崎F時代の三笘は、三笘だったこともあれば、どこにいるのかわからなくなってしまうこともあった。スーパースターに、不出来、不調は許されない。一度でもネイマールにたとえられたからには、本物のネイマールを目指してほしい。まずはベルギーリーグで無双する三笘を期待する。

 国内に目を移せば、三笘らの抜けた川崎Fの眼下に、横浜が迫ってきた。勝ち点ではだいぶ差があるが、えげつない補強を敢行した神戸からも目は離せない。そろそろ、新しい季節の到来である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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