【コラム】金子達仁

初めて日本人であることを誇らしく思えるW杯

[ 2018年6月20日 12:40 ]

日本―コロンビア戦を観戦に訪れられた高円宮妃久子さま。後方は元日本代表の三浦知良選手。左は日本サッカー協会の田嶋幸三会長
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 歴史的な1勝である。

 W杯で勝ったことならば過去にもある。けれども、これほどまでに相手を圧倒しての勝利は、かつてなかった。しかも、圧倒した相手は、これまで一度たりとも勝ったことのなかった南米のチームだった。

 にもかかわらず、この日の日本は主導権を握ることを欲し、その思いを現実のものとした。結果はともかくとして、こういう勝ち方はハリルホジッチ体制では起こり得なかったはずである。

 もっとも、正直なところ、前半の戦いぶりにはかなりイライラさせられた。直前のパラグアイ戦で見られた軽快さが微塵(みじん)も感じられなかったからである。攻撃の起点として期待した柴崎や乾も、1週間前を10とするならば3か4ぐらいの出来に思えた。

 そういう意味では、いささか気持ちの悪かった同点ゴールを許したことは、日本にとって幸いだったかもしれない。あのまま1―0のまま試合が進んでいれば、選手たちの「守ろう、守らなければ」という意識はますます強くなり、サッカーはいよいよ消極的なものになった可能性があった。

 だから、日本サッカー史上初めて南米のチームを圧倒した後半の50分間は、相手が10人だったからというより、日本の選手が前半は出せなかった勇気を見せたからだった。ボールをつなぐ勇気。縦に入れる勇気。なにより、コロンビアを圧倒しようという勇気――。

 何より嬉(うれ)しく、そして心強いのは、この日の日本が必ずしも最高の出来ではなかった、ということである。GK川島が神がかったわけではないし、長友は気合が入りすぎて空回り気味だった。ジョーカーとして投入された本田には、致命傷になりかねないミスも出た。

 それでも、日本は勝った。この試合で燃え尽きてしまうのでは、といった心配を一切感じさせない、十分に余力を残した状態で、最初の難関を突破した。吉田、昌子の奮闘は見事だったが、おそらく、これよりももっと厳しく追い込まれた状況を彼らは体験しているはずである。

 わたしが何より嬉しいのは、W杯で自分たちが主導権を握って勝つという試合を、ついに日本国民に披露してくれた、ということである。これからは、この試合が、この勝ち方が、日本人にとってのベンチマークになっていく。

 そうなることを祈る。

 だから、大切なのはこれからの試合である。コロンビアとはまたタイプの違うセネガルを相手に、それでも主導権を握る試合ができるのか。握ったうえで、勝利をつかむことができるのか。できなければ、世論は再び迷走する。日本らしいやり方とは何か。手さぐりの旅が続くことになる。そうならないためにも、そろそろ日本の目指す道を明確にするためにも、さらなる内容を伴った試合を期待したい。

 ともあれ、きょう1日ぐらいは美酒に酔うことにする。素晴らしい試合、素晴らしい勝利だった。日本人であることを誇らしく思える、わたしにとって初めてのW杯だった。(金子達仁氏=スポーツライター)

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