黄金期を彩った巨匠たちの作品ばかりでは、チトさみしい

[ 2018年11月18日 09:00 ]

脚本家の橋本忍さん(08年撮影)
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】7月19日に100歳で死去した脚本家の橋本忍さんのお別れの会が11月13日に都内で開かれた。山田洋次監督(87)や俳優の北大路欣也(75)ら約150人が出席し、シナリオの巨人をしのんだ。

 「悪いシナリオからは良い映画は生まれない」とよく言われる。橋本さんの仕事がいかに優れたものだったかを傍証したのが英国放送協会(BBC)が先ごろ発表した「最も偉大な非英語圏映画トップ100」だ。BBCの公式サイトによると、黒澤明監督の「七人の侍」(1954年)が堂々の1位に選ばれた。

 世界43カ国・地域の映画評論家209人のアンケートによる結果で、黒澤作品は4位に「羅生門」(50年)、72位に「生きる」(52年)、79位に「乱」(85年)と計4本が選出され、橋本さんは「乱」以外の3本に携わった。

 日本映画は他に小津安二郎監督の「東京物語」(53年)が3位、「晩春」(49年)が53位。溝口健二監督の「山椒大夫」(54年)が61位、「雨月物語」(53年)が68位、「残菊物語」(39年)が88位。宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」(2001年)が37位。成瀬巳喜男監督の「浮雲」(55年)が95位にランクインし、計11本が選出された。現役が宮崎監督だけというのは寂しい限りで、世界からは50年代の黄金期から時が止まって見えているのかと正直残念な思いがする。

 映画の話題を続けよう。11月11日に船堀映画祭で無声映画の上映会が行われた。「ご近所参加型」をモットーに東京都江戸川区などが後援するイベントで、今年が10回目の開催だった。

 上映されたのは1937年大みそかに封切られた日活京都撮影所製作の「血煙高田の馬場」で、主人公の中山安兵衛を演じたのは阪東妻三郎。牧野省三監督の長男、マキノ正博と稲垣浩両監督が演出したトーキー作品(発声映画)だが、音質が劣化しているため、活弁付きで上映された。

 現存する約50分の映像に命を吹き込んだ弁士はなんと俳優の目黒祐樹(71)だった。父はご存じ、時代劇スターの近衛十四郎。母も可れんな美しさで知られた女優の水川八重子。40年ほど前、「無声映画の夕べ」というイベントに招かれた目黒がたまたま両親の共演作に出会ったのがカツベンに興味を抱き始めたきっかけ。10年前からは「関西最後の弁士」と呼ばれる井上陽一氏(79)に弟子入りして研さんを積んでおり、11日の船堀映画祭が東京での弁士デビュー戦となった。

 「血煙高田の馬場」には長屋に住む講釈師の役で志村喬の顔も見える。「最も偉大な非英語圏映画トップ100」で選ばれた黒澤作品には「七人の侍」「羅生門」「生きる」の3本に出演。脚本の橋本さんではないが、偉大な俳優だったと改めて実感する。ちなみに「羅生門」「雨月物語」「浮雲」と監督の違う3作品に出演したのが森雅之。こちらも忘れられない名優だ。

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