上方落語協会新会長・笑福亭仁智 師・仁鶴の言葉胸に「ボチボチ変える」

[ 2018年7月29日 12:06 ]

5月31日、第6代会長・桂文枝から“バトン”

座右の銘「月よりも――」を記したサイン色紙を手にする笑福亭仁智
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 8期15年続いた桂文枝(75)からバトンを受け継ぎ、第7代上方落語協会会長に笑福亭仁智(65)が就任した。誠実で面倒見が良く、若手落語家から絶大な支持を得ている仁智。笑福亭仁鶴(81)の一番弟子は師匠の金言を胸に、体制も一新し、新しい上方落語界を模索していく。(古野 公喜)

――サインに記す「月よりも花よりも なお美しい 人の笑い顔」――

 サイン色紙に座右の銘を求められると、必ず記す言葉がある。「月よりも花よりも なお美しい 人の笑い顔」。1977年に亡くなった「上方漫才の父」と呼ばれる漫才作家・秋田実の言葉。「同じではまずいんで、少しだけアレンジしました。私が40歳の頃、老人ホームや障がい者施設を1週間で60カ所ぐらい回って。その時にホンマに喜んでいただいた。その時に見た笑顔がね」。新会長に就任した仁智は懐かしそうに笑った。

 2016年の前回選挙では文枝、桂ざこば(70)に次いで3位の得票だった仁智。今年4月26日は中堅、若手を中心に114票を集めた。2位の月亭八方(70)が66票。「自分が(会長に)なるなんて思ってなかった。若い子が入れてくれたというのは、何か変えて欲しいという空気、期待感があるのか」。会長候補に選出され、5月31日の総会で7代目会長に正式就任することが決定した。

 就任会見後、その足で大阪・豊中にある師・仁鶴の自宅に出向いた。「(会長就任を)受けようと思うんですが」と報告。「師匠からなんと、お小遣いを頂きまして。喜んでくれたのか。“まあ、これで飯でも食いなはれ”とね。珍しいことやな、いつ以来かなあと思って」。その後、心に突き刺さる言葉をもらった。

     ―――師匠から小遣いとともにもらった“金言”―――

 「まあ、大きく変える必要はありませんなあ。ボチボチ、コツコツやったらええがな。やりなはれ」

 何もするなということだったのか?と問うと、「この“大きく変える必要はない”というのは“現状を変えない”ということ。凄くパワーがいると思うんですよ。“維持する”とか“高めていく”とか、そういうもの」。世の中の流れを見据え、時流に沿ってほんの少しずつ、周りが気づかないうちに、よりよい方向へ進めていく。最初に感じた若手からの“期待感”とは違った師匠の言葉だったが、すぐに理解した。

 前会長の文枝は06年の大阪・天満の定席「天満天神繁昌亭」に続いて今年7月の神戸・新開地の定席「新開地・喜楽館」のオープンに尽力した。

 「文枝会長はアイデアマンで、行動力があって、それを早く実現しようとしてこられた。皆に相談せんとやったところもある、とおっしゃってました。そんな中、やっていない、手の付けてない部分があると思います」

     ―――新体制は“若返り” 副会長は桂米団治1人に―――

 5人いた副会長を桂米団治(59)だけにした。年輩の副会長らを顧問、相談役にして体制を一新。各委員会に若手を登用し、9月1、2日の大阪・生国魂神社「彦八まつり」の実行委員長には桂春蝶(43)を起用した。

 自らの仕事としては、第1弾として、西日本豪雨の被災地へ義援金を贈るための「チャリティー落語」の開催を決めた。8月15、16日に喜楽館で実施する。もちろん現役落語家としても先頭に立つ。120ほどの新作を生み出したが「時事ネタではなく後々、古典になるような分かりやすいものを。いつまでもチャレンジ精神で、モチベーションを保つようなことができれば」とした。

 仁鶴を師匠に選んだのは「人を引き付ける力がある」という理由から。これからは自身が会長として、一人の噺家(はなしか)として、人を引きつけていく。

 <嫁さんが優しくなりました>○…会長就任から約2カ月。「あまり実感が湧かない」と話していた仁智だが、ちょっぴり変わったところもある。「取材を受けることが多くなりました」と露出が増えたことを挙げ、自宅でも変化はあった。「嫁さんが優しくなったってことですか。今まで(落語を含めて)は結構批評してきましたが、最近はグッとのみ込むようになって。それで、こちらもいらんこと言わんで済むようになりました」。夫婦仲にプラスになっているようだ。

 <元近鉄ファン。今は大谷に熱視線>○…かつてABCラジオ「近鉄バファローズアワー」に出演するなど、ファンとして知られた仁智だが、04年に近鉄が球団経営からの撤退を表明。「それ以来、応援するチームはありません」。だが、野球好きは変わらず、現在は毎朝、米大リーグの試合に見入っているそうだ。中でもエンゼルスで活躍する大谷翔平(24)をイチ推し。「言うまでもなく素晴らしい選手。落語界にも、大谷君みたいな若手が出てくれれば」と“怪物”の出現を心待ちにしている。

 ◆笑福亭 仁智(しょうふくてい・じんち)本名・浅田晃一郎。1952年(昭27)8月12日生まれ、大阪府羽曳野市出身の65歳。勝山高卒業後の71年、笑福亭仁鶴に一番弟子として入門。古典落語だけでなく新作落語もこなす。近鉄バファローズのファンとしても知られた。

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