沖縄・久米島の離島留学生制度は壮大なる実験か?

[ 2017年3月10日 08:00 ]

離島留学生の卒業生を囲んで。前列右から3人目が大田町長
Photo By スポニチ

 【笠原然朗の舌先三寸】沖縄県立久米島高校の卒業式が3月1日に行われ、第1期の「離島留学生」4人が巣立っていった。4月から2年生になる私の次男は第3期の留学生。そんな縁もあって卒業式と同校で行われた離島留学生卒業報告会に出席した。

 久米島は沖縄本島の西約100キロに位置する周囲約50キロの離島。プロ野球・楽天の春季キャンプが行われることでも話題になる自然が豊かな島だ。

 久米島町が離島留学生を受け入れるようになったのは2014年。それには離島ならではの事情があった。

 ピーク時には1万7000人を超えていた島の人口も、いまや約8000人に半減。少子・高齢化や、進学や就職を機に島を離れる人が増えたのが原因。それにともなって、島で唯一の高校である久米島高校の園芸科が廃科の危機に陥った。サトウキビ栽培や酪農が主要産業である同島にとって園芸科は“看板学科”でもある。そこで行政、教育委員会、町商工課、住民有志が結束してスタートしたのが現在にもつながる「久米島高校魅力化プロジェクト」。「島の教育は島全体で応援する」が目標だ。

 離島留学生受け入れもその一環。卒業していく4人は最初、島の住民たちが“里親”となり、そこで生活しながら学校へ通った。昨年、沖縄関係予算の一括交付金を利用して建設された寮「じんぶん館」が完成。3年生の1年間は寮生活を経験した。

 報告会で大田治雄久米島町町長は、4人の卒業生に向けて「皆さんが来て久米島は変わりました。島の子たちも皆さんと机を並べて勉強することでいい刺激になりました」と挨拶した。

 島内には小学校が6校、中学校が2校ある。高校受験で島外へ出る生徒以外はすべて久米島高校へと進学する。生徒同士は血縁、地縁のつながりも多く、顔みしりも多い。県内の他地域のことはよくわからないが、「ゆいまーる」(沖縄方言で「助け合い」)の気風が濃く、学校でのいじめもない。一方で、競争意識をはぐくむ機会も少なく、よい意味でも悪い意味でも「お人よし」が多いと言われる。

 そんな久米島っ子たちにとって離島留学生は、大田町長の言葉にあるように「刺激を与える存在」であることは間違いない。

 離島留学生の1人は話した。

 「久米島高校は大学進学率が高くない。僕が中学校まで過ごした地域の学校は、大学に進学するのが当たり前だった。でも久米島高校の生徒は、就職(という選択肢)を一人一人が真剣に考えて決断していた。こういう久米島のあり方が良いと思う。東京の高校へ通うより学ぶことが多かった」

 発言した男子生徒は、テニス部を立ち上げ、琉球舞踏の「組踊り」などに取り組む一方で猛勉強。琉球大学への進学を決めた。将来は教師になることを希望しているそうだ。

 「まわりがそうだから」当たり前のように大学に進学するのではなく、就職も進学も選択肢としてある中で、改めて大学進学を選んだのだろう。彼をはじめ4人は、久米島留学という“サウスバウンド”で、「自分の人生を自分で生きる」というとても貴重な視座を得たのではないか。

 久米島が育て、初めて送り出す生徒たちである。見方を変えるなら町は税金を使った投資を行ったことにもなる。

 園芸科を卒業した男子生徒が言った。「これからは支援を受ける側から(島を)支援をする立場に変わる」。4人のこれからによって、島が“投資”した意味や真価が問われるということだ。

 看護師を目指すという女子生徒は「久米島は第二の故郷。いつか恩返しをしたい」。別の女子生徒は「久米島に土地を買って自給自足の生活をするのが夢」。4人は異口同音に「島に帰ってくる」「島のために役立つ」と話した。よくできた優等生たちである。

 今年は新1年生の留学生として全国から13人が入学を希望しているという。仮に全員が入学すると離島留学生は3学年で29人。久米島高校の全校生徒に占める割合は約15%。一大勢力である。

 久米島にとって離島留学生たちをどう育てていくかが、いま以上に問われてくるだろう。制度を進化させ、一定の“結果”を残すためには、島内では行政、教育委員会、商工会、学校、寮、島民、島外では留学生制度をサポートするNPO、留学生の保護者らのより緊密な連携が求められる。

 私見である。

 久米島の離島留学生制度は、歴史的恩讐を超えて、ウチナンチューとヤマトンチューの、壮大なる夢へ向かっての共同実験だ。(専門委員)

 ◎フーチバーのジューシーもどき

 フーチバー(ヨモギ)は沖縄料理でよく用いられる食材。さわやかな香りがあり、肉や魚のくさみ消しとして用いられている。ジューシーは炊き込みご飯のこと。

 (1)フーチバーは下茹でして細かく刻んで水を切る。

 (2)ニンジン(小2本)をミジン切り。

 (3)米3合は出汁で炊く。(1)と(2)を加え、ツナ缶(油入り)をそのまま1缶、出汁しょう油、塩を加え、炊飯器にセットすればOK。

 ※フーチバーの香りがさわやかな一品

 ◆笠原 然朗(かさはら・ぜんろう)1963年、東京都生まれ。身長1メートル78、体重92キロ。趣味は食べ歩きと料理。

続きを表示

この記事のフォト

2017年3月10日のニュース